ヘルスケアコラム
自分や環境と上手に調和して心を成熟させていくことが大切

人間関係をうまくつくれることも「心の健康」保持に

「心の健康」が保たれているとは、どのような状態なのかについて一概に言うことは難しいのですが、おおよそ次のように考えられています。つまり、仕事や家庭生活における活動が十分であること、家族や友人など他人との関係をうまく構築していけること、また、いろいろな身の回りの変化に対してうまく適応していけること、あるいは危機的な状況に思考や気分、行動を介して合理的な対応ができる状態を言います。

健康面だけではなく、多様なとらえ方ができる「心の正常」

一方、心が正常である状態については、いろいろととらえ方や考え方ができます。(1)健康としての正常健康な状態=正常という考え方です。(2) 理想としての正常心や精神機能が完全で、最高に働いている状態を正常とするとらえ方です。(3) 平均としての正常心理的状態や行動が平均範囲にあることを正常とする見方で、ある特性が高すぎても、低くすぎても異常とされます。(4) 過程としての正常ある一時点での特性に注目するのではなく、変化または過程を強調するものです。人格の漸成的(ぜんせいてき)発達(人間は前の段階の達成のうえに次の段階に進むという考え方)や、成熟した成人としての機能が獲得された状態を言います。いずれにしても精神的に正常な人たちは自分自身とも、また環境ともうまく調和して生活していると言えます。

よりよく心が成長していくにはさまざまな能力の獲得が不可欠

アメリカの発達心理学者であるエリクソン(1902~1994年)は、幼児期から老年までの8つの段階からなるライフサイクルを考えました(図1)。それによると、それぞれの段階で超えなければならない中心的な課題があり、それをクリアすることでさまざまな能力を獲得していきます。各段階で、それぞれの能力の獲得に失敗すると、対極のネガティブな側面が優勢になるとしています。エリクソンは、第Ⅰ~Ⅳ段階は思春期までに獲得され、第Ⅴ段階の「自我同一性」は青年期に、第Ⅵ段階「親密さ」は初期成人期に(若い成人期)、第Ⅶ段階の「生殖性」(後から来る者にさまざまなものを受け渡していくこと)は中年期(成人期)までに達成されること、老年期(成熟期)には、それまでの自分の人生を振り返り統合することが心の成熟のために重要であると説いています。
【引用・参考文献】
 総監修:渡邊 昌、和田 攻 100歳まで元気人生!「病気予防」百科 日本医療企画