ヘルスケアコラム
一人にしないで、常に寄り添って温かく見守り支えることが一番

自殺を考える人の心の根底には、無価値感や閉塞感、無力感が……

うつ病の人が死にたい気持ちになる根底には、「生きていてもこのつらさが続くだけだ」「早く苦痛から逃れて楽になりたい」という考えや、「自分など生きている価値がない」「生きていると周囲に迷惑をかける」という無価値感や罪責感などがあります。まれに周囲への怒りや抗議の気持ちで自殺を企てる人もいますが、この場合も、八方ふさがりな感じや孤立無援感、ほかに方法がとれないという無力感が根底にあることには変わりません。
その気持ちを行動に移す可能性が高まった状態(表1)では、このような思い込みが強くなりすぎており、周囲が「そんなことはない、大丈夫」と説得しても、その言葉を受け入れ信じることが困難になっています。杞憂(きゆう)を否定し安心させる試みも大切ですが、それだけでは「つらさをわかってもらえない」と感じたり、“大丈夫なはずなのにできない自分”を責め、いっそう焦ったりいたたまれなくなることがあります。

「あなたは大切な人」という思いを繰り返し伝える

死にたい気持ちを持つ人をこの世につなぎ止めるもっとも大きな要素は身近な人との絆です(図1)。自殺を防ぐための魔法のような気の利いた一言があるわけではありません。
「あなたがいなくなったら自分も死ぬほどつらく悲しい」ということを繰り返し伝えてください。そして、今のつらい気持ちは受け止めるけれど、その絶望的な感情はきちんと治療を受ければ必ず消えていくものであり、それまでの間そばで支える、ということを示してください(図2)。患者さんを一人にしないこと、寄り添って温かく見守ることが何よりも大切です。

自殺の可能性が高ければ入院が必要なことも

絶望している人は薬を飲まなくなってしまうことがよくあります。また、自殺の手段として薬をため込み、一度に大量に飲んでしまうこともあります。最近の抗うつ薬は大量に飲んでも死に至る危険性が少ないものになっているとはいえ、自殺の危険がある場合は周囲の人が薬を管理することが望まれます。
さらに、きちんと治療を受ければ必ず楽になることを繰り返し伝え、定期的に通院できるように通いやすい病医院を決め、通院には付き添うなどの配慮をしてください。
自殺の可能性が高い人には入院が必要になる場合もあります。初めのうちは危険を回避するため、また十分な休息のために、外界との接触を制限し、あれこれ思い悩まずにすむ量の薬を使うこともありますが、再び生きるエネルギーがたまってくれば元の生活に戻れるので、入院での治療を心配しすぎないようにしましょう。
【引用・参考文献】
 総監修:渡邊 昌、和田 攻 100歳まで元気人生!「病気予防」百科 日本医療企画