ヘルスケアコラム
言葉の遅れのない自閉症に注目家庭や学校での理解を深めよう

100人に1人くらいいる広汎性発達障害

自閉症は以前は社会性の問題、言葉の発達異常、頑固なこだわりの3つを特徴とする障害とされていました。しかし昨今、言葉の問題があまりない自閉症が注目されるようになり、自閉症の上位概念として「広汎性(こうはんせい)発達障害」(Pervasive Developmental Disorders;PDD)という用語が使われるようになりました。
広汎性発達障害は社会性の問題、言葉や言葉を使わないコミュニケーションの問題、こだわりが強く想像性に乏しいことを特徴としています。従来から言われていた言葉の遅れを伴う典型的な自閉症は1,000人に1人くらいしかいませんが、2007年現在の診断基準では、広汎性発達障害は100人に1人くらいいると言われています。広汎性発達障害のうち、IQがおおむね70以上の場合を高機能広汎性発達障害と言い、なかでも言葉の発達の遅れがほとんどないものをアスペルガー障害と呼びます。

知的遅れのある自閉症には早期から適切な療育を

広汎性発達障害は脳の機能障害が原因で、育て方のせいでなるわけではありません。逆に言えば、育て方や教育では広汎性発達障害を完全に治すことはできません。
しかし、典型的な自閉症の子どもに対して早期から適切な療育を行うと、社会生活を送りやすくなることがわかっています。ですから、言葉の遅れがあり、社会性の問題やこだわりの問題がある子どもは3歳くらいまでに診断のうえ、適切な療育を受けるべきであり、各自治体は自閉症の療育施設を整備する必要があります。また、自閉症の親は養育で非常に苦労しますから、社会的な支援も必要です。親の会への参加なども親の負担の軽減につながります。

知的遅れのない広汎性発達障害の研究はまだ始まったばかり

言葉の遅れや知的遅れのない広汎性発達障害では、家庭や学校で子どもの特徴を理解せずに嫌がることを強制し続けると、小学校高学年のころからパニックや異常行動が目立つようになります。したがって、早期からの対応を考える必要がありますが、早期療育は確立されていません。また、小学校低学年まではどのような子どもがそうなるのか予測がつかない面もあり、早期診断をしようとすると、あまり問題なく生活できる子どもにも障害のレッテルを貼る危険があります。
言葉の遅れや知的遅れのない広汎性発達障害の研究はまだ始まったばかりであり、しばらくは混乱も多いでしょう。ただ、社会全体が広汎性発達障害を理解して、彼らが住みやすい社会をつくっていくことが重要であることは間違いありません。
【引用・参考文献】
 総監修:渡邊 昌、和田 攻 100歳まで元気人生!「病気予防」百科 日本医療企画