ヘルスケアコラム
65歳以上の約半数に嗅覚障害食事に香料を加えるなどの工夫も

危険察知にも重要な感覚脳の嗅覚の記憶が衰えをカバー

高齢社会を迎え、潤いのある豊かな高齢期を過ごすためにも味覚や嗅覚の重要性が注目されています。視覚や聴覚に比べて嗅覚(きゅうかく)の加齢変化はあまり知られていませんが、実は65歳以上の約半数、80歳以上では約4分の3に嗅覚障害が生じているとされています。高齢者では本人が嗅覚障害に気づいていないことも少なくありませんが、これは脳の嗅覚の記憶が減退した嗅覚を補っているためで、この脳の記憶の機能が衰えると、におわないことをはっきりと自覚するようになります。
嗅覚は、食事や香料などの良いにおいを楽しむだけではなく、火事やガス漏れをいち早く感じたり、腐った食べ物をかぎ分けたりと、身の安全を確保するためにも大変重要な感覚です。核家族化で一人暮らしの高齢者も増えていますので、危険を察知する嗅覚の働きはますます大切になっていると言えます。

嗅覚の変化の原因は嗅細胞の減少や脳機能の低下

加齢による嗅覚の変化の原因には鼻にある嗅覚のセンサー、嗅細胞の減少が挙げられます。また、アルツハイマー病でいち早く嗅覚が減退するように、においを感じる脳の働きの低下も影響します。におうのはわかるが、何のにおいかわからないというにおいの認知の障害の場合は、このような脳の働きの障害が考えられます。
さらに、食べ物の味覚には嗅覚が大きく影響していて、嗅覚が弱くなると味の区別もできなくなります。嗅覚が弱い高齢者ほどやせ気味、病気気味ですが、これは嗅覚が衰えることで食欲がなくなり、栄養状態が悪くなりやすいことを意味しています。実際に味覚障害よりも嗅覚障害の人のほうが3倍も多いことからも、嗅覚障害が食欲、栄養摂取に与える影響の大きさがわかります。

期待される嗅覚トレーニング法嗅覚を弱くする薬にも要注意

加齢による嗅覚障害の治療法は残念ながらありませんが、嗅覚障害が食欲の減退につながり、高齢者の健康状態に大きく影響することから、嗅覚刺激を強くするような対策が必要とされます。高齢者の食事に香料を加えるような工夫も一案でしょう。においの刺激によって脳のにおいの感受性をトレーニングできる可能性もあり、嗅覚障害のリハビリテーション法をこれから開発していく必要があると思います。
また、嗅覚障害と薬剤との関係も深く、ある種の降圧剤や抗がん剤、抗生物質が嗅覚を弱くすることがわかっています。このようなくすりを内服していてにおいを感じにくくなったと思われる場合は、早めに主治医に相談してください。
【引用・参考文献】
 総監修:渡邊 昌、和田 攻 100歳まで元気人生!「病気予防」百科 日本医療企画