ヘルスケアコラム
発症前に病気のリスクを知り、治療方針や生活習慣の改善に役立てる

DNAに書かれた生命の設計図に異常がないかを調べる検査

1つの受精卵が細胞分裂を繰り返し、60兆個の細胞でできた1人の人間になるために必要な設計図全体をゲノムと言います。この設計図全体は百科事典のように巻に分かれており、それぞれの巻に当たるのが染色体です。女性は1番から22番まで各2本の常染色体とX染色体を2本、男性は1番から22番まで各2本の常染色体のほかにX染色体とY染色体を各1本持っています。
巻を構成する1枚の設計図のことを遺伝子と言い、それにはたんぱく質の構造が記述されています。紙に書かれる代わりに、生物の設計図はDNAという分子に書かれています。これらの設計図に異常がないか調べる検査が遺伝子検査です。

遺伝子に異常があると、遺伝病や先天異常の発生の可能性が

遺伝子に異常があり、健康への影響が大きいと、遺伝病や先天異常として現れます。たとえば、少年期に徐々に筋力が低下する筋ジストロフィーは、ジストロフィン※遺伝子の異常が原因です。
一方、遺伝子の単独異常では健康への影響が小さくても、長期にわたる生活習慣の影響を受けて疾患が発生することがあります。たとえば、家族性高コレステロール血症の人は生まれつき血液中のコレステロール値が高く、治療しないで放置すると30歳以前に冠動脈硬化症を発症し、心筋梗塞で死亡することがあります。適切な薬剤を投与しコレステロール値を低下させ、喫煙、肥満、高血圧などの危険因子を取り除くことにより、冠動脈硬化症の発症年齢を遅らせることができます。
遺伝子検査により、発症する前に疾患を診断し、発症しやすさを知ることができます。将来の健康上のリスクを知り、適切な治療を受け、生活習慣を変更することで、そのリスクを最小限にするのがこの検査の目的です。

治療法のない疾患の発症前診断や個人情報の管理などに難しさも

遺伝子検査には問題点もあります。たとえば、ハンチントン病※のように確実な治療法のない疾患の発症前診断は被検者に苦悩のみを残すことがあるため、検査前に十分情報提供を受け、検査のメリットとデメリットを理解する必要があります。検査を受ける前やその結果に基づく方針(予防対策や治療法)の選択時には、カウンセリングも受けられます。
遺伝子検査の結果はもっとも基本的な個人情報であり、他者に漏れないよう十分に配慮されなければなりません。結婚、就職に関して社会的な差別を受けたり、生命保険の加入が制限されたりする可能性があるからです。

※ジストロフィン:筋細胞(筋肉を構成する細胞)の膜を裏打ちしているたんぱく質。筋ジストロフィーの患者さんでは、ジストロフィンが欠落しているか、構造に異常がある。
※ハンチントン病:成年期を過ぎてから発症する神経変性疾患。
【引用・参考文献】
 総監修:渡邊 昌、和田 攻 100歳まで元気人生!「病気予防」百科 日本医療企画