医学書

悪性リンパ腫

[受診のコツ]

発症頻度:★(まれにみる)
初診に適した科:内科(系)/血液内科
初期診断・急性期治療に適する医療機関:総合病院・大学病院/特殊専門病院・研究機関病院(大学病院)
安定期・慢性期治療に適する医療機関:総合病院・大学病院/特殊専門病院・研究機関病院(大学病院)
入院の必要性:原則的に必要
薬物治療の目安:病状、病期、治療方針により大きく異なる
手術の可能性:まれ(診断のため)
治療期間の目安・予後:病気の進行度などにより治癒の期間・可能性が大きく異なる
診断・経過観察に必要な検査:血液・尿/造影レントゲン/超音波検査(エコー検査)/CT検査/生検(細胞診を含む)/RI検査/PET検査
その他必要な検査:その他()
※受診のコツは、典型的なケースを想定して総監修者・寺下謙三が判断したものです。実際のケースでは異なることがありますので、判断の目安としてお役立てください。なお、項目はあらかじめ全疾患を通して用意された選択肢から判断したものです。

[概説]

 悪性リンパ腫は、リンパ節、リンパ管、脾臓(ひぞう)、胸腺、扁桃(へんとう)などを含むリンパ組織の腫瘤(しゅりゅう)形成性腫瘍(しゅよう)の総称で、ホジキン病と非ホジキンリンパ腫に大別されます。ホジキン病は日本では比較的まれな疾患で特異的なリード・シュテルンベルグ(Reed-Sternberg)細胞が出現する疾患です。ホジキン病はその大部分がBリンパ球由来であることが最近わかってきました。
 最近の化学療法、放射線療法の進歩により、根治可能な疾患となっています。非ホジキンリンパ腫は、その細胞由来により、Tリンパ腫、Bリンパ腫、NK(ナチュラルキラー)リンパ腫、またその細胞の分化度でいろいろな種類に分けられています。細胞の由来、分化度により、予後、治療法が大きく異なるので、十分な検査をして、診断することが必要です。日本では人口10万人あたり、7人程度の発生率とされています。原因が明らかなものは少ないのですが、成人T細胞リンパ腫(白血病)とHTLV-I(ヒトTリンパ球性ウイルスI型)、バーキットリンパ腫とエプスタインバーウイルスの関連が知られています。

[症状]

 発熱、全身倦怠感、体重減少など一般の消耗性症状で発症することが多くみられます。リンパ節腫脹はどのタイプの悪性リンパ腫にも認められます。Tリンパ由来悪性リンパ腫の一部には皮膚の紅斑(こうはん)、腫瘤、そう痒(かゆみ)が起きやすいものもあります。

[診断]

 悪性リンパ腫に特徴的な一般臨床検査はありません。診断にはリンパ節を手術的に切除して(生検)その病理標本を観察することが基本です。場合によっては開腹手術なども行って診断をつけなくてはならない場合もあります。末梢血液中への異常細胞出現例(白血化)などでは白血病と同様の検査をします。免疫学的検索(異常細胞の抗原発現)も悪性リンパ腫の診断、分類には必須です。
 感染症の検索もその診断、治療に重要なことがあり、HTLV-I、HHV-8(ヒトヘルペスウイルス8型)、エプスタインバーウイルスの感染について調べます。Bリンパ球由来悪性リンパ腫では染色体異常が関係していることが知られており、濾胞(ろほう)リンパ腫のt(14;18)、バーキットリンパ腫のt(8;14)などが知られています。
 このように悪性リンパ腫の診断を確定することと同様に重要なことが、病期診断であり、このために超音波、CTスキャン、シンチグラフィー、リンパ管造影などを行います。
 病期Iは、1つのリンパ節領域のみ、またリンパ節外領域の限局された場所に病変がある場合、病期IIは、横隔膜で境をした片側のリンパ節領域2つ以上の病変、または1つのリンパ節外臓器とその同側リンパ節領域に病変がある場合です。横隔膜の上下にわたる複数のリンパ節領域の病変があるとIII期、リンパ節病変の有無にかかわりなくリンパ節外臓器のび漫性浸潤があるとIV期になります。
 表に非ホジキンリンパ腫の国際分類(WF)を示します。

表:非ホジキンリンパ腫の国際分類(写真ST08011001)

[標準治療]

●非ホジキンリンパ腫の治療
[1]低悪性度群
 病期分類でI、II期の症例では放射線単独療法が行われることもありますが、一般的には放射線療法と、化学療法が行われます。病期III、IVの症例ではCHOP療法などが試みられています。最近になり低悪性度のB細胞型の悪性リンパ腫の治療にCD20と呼ばれるタンパクに対する抗体(リツキサン)が使用され、化学療法との併用で治療成績が改善されています。

[2]中等度、高悪性度群
 化学療法が基本的な治療法で、最近では50%以上の治癒率が期待できます。進行例で大きな腫瘤を伴う場合は、放射線療法を併用します。化学療法としてはCHOP療法、VEPA療法、またその後開発されたMACOP-B、LSG療法などがあります。それぞれ多剤併用療法であり、ドキソルビシン、サイクロフォスファミド、ビンクリスチン、メソトレキセート、ブレオマイシンなどの化学療法剤を使用するものです。治療の強度、薬剤耐性、骨髄抑制などをそれぞれ考慮して組み合わせてあります。非ホジキンリンパ腫の約半数は現在の治療をもってしても治療抵抗性であり、このような症例に対して自家末梢血幹細胞移植が行われる場合があります。自己の末梢血にある造血幹細胞を保存しておいて、超大量化学、放射線療法で悪性リンパ腫細胞を絶滅させてから、保存しておいた幹細胞を投与し、正常造血能を回復させるものです。保険適用になっていますが、侵襲(しんしゅう)の強い治療法であり慎重に症例を選ぶ必要があります。

[予後/生活上の注意]

 低悪性度群は症状が起きにくく、発症時には病期III、またIVの進行例が多いのです。細胞の悪性度は低いのですが、長期(15年)の寛解(かんかい)維持率で比較すると、中等度、高悪性度のリンパ腫より悪く、治癒困難な疾患といえます。一般的にはTリンパ腫のほうがBリンパ腫より難治性です。悪性リンパ腫は白血病と異なり、急性の症状は少なく、また骨髄抑制の程度も低いのが普通です。初期の治療を除き、現在、外来治療を中心にできるようになりました。
執筆者
尾崎由基男(おざき ゆきお)
山梨大学医学部臨床検査医学教授

【出生年】1951年
【出身校】東京大学(1977年卒)
【専門】血液内科学
【得意分野】血栓、止血、血小板
【外来日】(1)城東病院:水(午前)、(2)鰍沢病院:火(午前)
【メモ】優しく患者さんに接すること、できる限り長くお話しすることです(お年寄りの話をゆっくり聞くこと)。趣味は囲碁、中国語、少しゴルフ。
【長所】
【短所】
【引用・参考文献】
 総監修:寺下 謙三 家庭のドクター標準治療 日本医療企画