医学書

あざ(母斑)

[受診のコツ]

発症頻度:★★(時々、しばしばみる)
初診に適した科:皮膚科/形成外科・美容外科
初期診断・急性期治療に適する医療機関:外来診療所/総合病院・大学病院
安定期・慢性期治療に適する医療機関:外来診療所/総合病院・大学病院
入院の必要性:診断や一時的治療(手術など)のために必要
薬物治療の目安:原病に対しては、不要なことが多い
手術の可能性:合併症により必要/レーザー治療
治療期間の目安・予後:治療により比較的短期(1~2カ月以内)に治癒できることが多い/継続的治療(生活習慣改善〈食事療法・運動療法など〉を含めた総合的治療)が必要
診断・経過観察に必要な検査:CT検査/MRI・MRA/生検(細胞診を含む)
その他必要な検査:その他()
※受診のコツは、典型的なケースを想定して総監修者・寺下謙三が判断したものです。実際のケースでは異なることがありますので、判断の目安としてお役立てください。なお、項目はあらかじめ全疾患を通して用意された選択肢から判断したものです。

[概説]

 生まれつきのあざのことを母斑といいます。ただし、遺伝性はありません。皮膚はいろいろな組織から構成されていますが、それらの組織は胎児の時につくられます。その際、皮膚の一部において、ある組織のできかたがまわりと違っていると(組織の分化異常)、変わった性質をもったその組織は全体の統制からはずれて増えてしまうことが起こります。その組織が、例えば、メラニンをつくるメラノサイトであれば、黒あざ(いわゆるほくろ、正式には色素細胞母斑)、茶あざ(扁平〈へんぺい〉母斑)、青あざ(蒙古斑〈もうこはん〉、太田母斑)となりますし、血管であれば赤あざ(ポートワイン母斑、いちご状血管腫)ということになります。
 一方、母斑を組織の分化異常という見方ではなく、細胞の増殖という観点からみれば良性腫瘍として考えることもできます。したがって、ほくろ(色素細胞母斑)は、メラノサイト系の母斑であるとともにメラノサイト系の良性腫瘍でもあります。同じようにポートワイン母斑は別名単純性血管腫ともいいますが、それは血管系の母斑であり良性腫瘍であるからです。また、母斑症という言葉がありますが、これは、母斑を1つの症状とする全身性の病気全体を指します。これらの病気の多くは遺伝性です。皮膚と神経を中心に症状のある遺伝性の病気を神経皮膚症候群と呼び、多くは母斑症と同じ意味になります。母斑症の中の代表的な病気が、レックリングハウゼン病(神経線維腫症I型)とプリングル病(結節性硬化症)です。

[症状]

 母斑はその由来する組織によって多くの種類があります。普通の皮膚色をした母斑もありますが、何らかの色がついた母斑が多いという特色があります。母斑は生まれつきのあざとはいっても、生まれた時にすでに症状が現れているとは限らず、あとからでてくることもあります。

1)黒あざ、茶あざ、青あざ
 黒あざ(色素細胞母斑)は様々な大きさのものがあり、生まれた時からみられる黒あざは比較的大きなものが多く、あとから出現してくるものは通常比較的小型です。小型の黒あざを俗に「ほくろ」といいます。茶あざは扁平母斑といわれますが、レックリングハウゼン病という母斑症でみられる多発する茶あざはカフェオレ斑と呼ばれます。青あざには青色母斑、蒙古斑、太田母斑があり、いずれも真皮(しんぴ)にあるメラノサイトが増えてメラニンをつくるために生じます。蒙古斑は東洋人の子どものおしりに生まれた時からみられる青あざですが、10歳頃には自然に消えていきます。太田母斑は、小児期から思春期にかけて顔に出現する青あざですが、茶色の色調を伴うこともしばしばあります。このあざは自然には消えません。

2)白あざ
 白あざは、メラノサイトの異常により生じる脱色素性母斑と、血管が収縮しっぱなしになるために白くみえる貧血母斑があります。プリングル病でみられる葉っぱの形をした脱色素性母斑を葉形白斑といいます。また、貧血母斑はレックリングハウゼン病でしばしばみられます。

3)赤あざ
 赤あざは、平坦な赤いしみのようなポートワイン母斑(単純性血管腫)とイチゴ状に盛り上がるいちご状血管腫があります。

4)脂腺母斑
 生まれた時から主に頭部に脱毛斑としてみられる黄色っぽいあざです。

5)母斑症(あざがみられる全身性の病気)
[1]レックリングハウゼン病
 母斑症の中のレックリングハウゼン病では、カフェオレ斑という茶あざが乳児期の頃から多発しています。そして、思春期になると神経線維腫という良性の神経系の腫瘍が皮膚に多発してきます。この腫瘍は柔らかく盛り上がっているもの(皮膚神経線維腫)、皮下にコリコリしたしこりとして触れるもの(結節性叢状神経線維腫)、大きくて垂れ下がってくるもの(びまん性叢状神経線維腫)があります。あとの2つは時に悪性変化することもあります。他に、背骨が曲がる(側弯〈そくわん〉)などの骨の症状、中枢神経の腫瘍などを伴うこともあります。

[2]プリングル病
 プリングル病では、小さい頃から葉形白斑に気づかれていますが、次第に顔面に血管線維腫という小さな結節が多発するようになります。脳内にいくつかの種類の腫瘍ができ石灰沈着を伴うこともあります。多くは、精神発達の遅れや、てんかん発作を伴います。

[3]スタージ・ウェーバー症候群
 スタージ・ウェーバー症候群は、赤あざ(ポートワイン母斑)が顔面の片側にでき、それが眼に及んで緑内障を起こすとともに、脳内にも血管腫ができてけいれん発作などの神経症状を伴う母斑症です。

[診断]

 母斑は、皮膚症状から診断します。母斑症では、神経の病変を見つけるために、CTやMRIなどの検査を行います。

[標準治療/予後]

 母斑の治療にあたっては、それぞれの母斑の自然経過を知っておくことが必要です。自然に消える母斑は、原則として治療の必要がありません。その中には、蒙古斑、いちご状血管腫があります。ただし、いちご状血管腫の場合は、大きくなると自然に消えても目立つ傷あとが残りますし、赤ちゃんの眼のふちにできてある期間眼を塞ぐと弱視になってしまうので、早急に副腎皮質ステロイド薬の内服が必要な場合もあります。したがって、最近では、ケースによってはいちご状血管腫を小さいうちにレーザー療法などで治療することも行われるようになってきています。
 また、いちご状血管腫よりもっと未熟で大型の血管腫の場合、中に出血を起こして血小板、凝固因子が消費され、全身の出血傾向を生じる(播種性血管内血液凝固=DIC)ことがあります。これをカザバッハ・メリット症候群といい、死亡率の高い病態ですので、ステロイド薬全身投与、放射線療法、抗DIC療法などを早急に行う必要があります。
 自然に消えない母斑では、将来的に2次腫瘍や悪性変化が予測される場合は絶対的な治療の適応になりますが、そうでない場合は整容的な面から患者さんとご両親の希望に応じて治療を行うことになります。
 2次腫瘍が高率に発生する母斑の代表は脂腺母斑です。思春期頃から、とくに毛や汗腺と関連した2次腫瘍がみられるようになり、中には悪性腫瘍も含むので、思春期頃までに切除するのが一般的です。巨大な先天性色素細胞母斑では、悪性黒色腫の発生のもとにもなりうるので、経過をみながら、徐々に切除、植皮を加えていきます。
 整容的な面で治療の対象となるのは、とくに顔面にできやすい母斑です。その代表は、太田母斑とポートワイン母斑です。太田母斑は顔面の青あざですが、治療はQスイッチルビーレーザー照射を行います。3カ月おきに計4~5回ほどの照射が1つの目安で、いずれの年齢においてもほぼ全例において著しい効果を示します。
 ポートワイン母斑のような平坦な赤あざにはダイレーザーを用います。この場合は、有効率は70%程度で、年齢が低いほうがより有効である傾向があります。茶あざである扁平母斑に対してもQスイッチルビーレーザー照射を行うことがありますが、この場合の有効率は高くありません(1/5~1/4)。したがって、茶あざについては、皮膚を浅く削る手術(皮膚剥削術)などを行うこともあります。
 母斑症の治療は、腫瘍を少しずつ切除していくこと、てんかんなどの神経症状が出現した場合は抗てんかん薬の内服などの対症療法が中心になります。ただし、レックリングハウゼン病で神経線維腫が悪性化して神経線維肉腫が出現した場合は、早急な外科的切除が必要です。

●標準治療例
 [1]ポートワイン母斑:ダイレーザー照射
 [2]いちご状血管腫:自然消退を待つ
 [3]太田母斑:Qスイッチルビーレーザー照射
 [4]脂腺母斑:外科的切除
 [5]色素細胞母斑:外科的切除
執筆者
土田哲也(つちだ てつや)
埼玉医科大学皮膚科学教室教授/埼玉医科大学病院皮膚科診療科長

【出生年】1953年
【出身校】東京大学(1978年卒)
【専門】皮膚科
【得意分野】膠原病、皮膚腫瘍(ダーモスコピー診断を含む)、皮膚アレルギー性疾患
【外来日】水(午前、初診、予約なし、紹介状はあればベターです)、水(午後、予約再診)、金(午前、主に予約再診ですが、初診の方も診察させていただいています)
【メモ】患者さんご自身に、ご自分の病気をよく理解していただくよう努めます。
【長所】ていねいなこと。
【短所】外来でお待たせしてしまう時間が長くなることがあり、いつも気にしています。
【引用・参考文献】
 総監修:寺下 謙三 家庭のドクター標準治療 日本医療企画