医学書

アキレス腱断裂

[受診のコツ]

発症頻度:★★(時々、しばしばみる)
初診に適した科:整形外科
初期診断・急性期治療に適する医療機関:外来診療所/小中規模病院/総合病院・大学病院
安定期・慢性期治療に適する医療機関:外来診療所
入院の必要性:重症度や症状により必要
薬物治療の目安:原病に対しては、不要なことが多い
手術の可能性:原則的に必要
治療期間の目安・予後:治療期間が中~長期(3~6カ年)に及ぶことが多い
診断・経過観察に必要な検査:単純レントゲン/超音波検査(エコー検査)/MRI
その他必要な検査:その他()
※受診のコツは、典型的なケースを想定して総監修者・寺下謙三が判断したものです。実際のケースでは異なることがありますので、判断の目安としてお役立てください。なお、項目はあらかじめ全疾患を通して用意された選択肢から判断したものです。

[概説]

 アキレス腱断裂は、中年以降のスポ-ツ外傷として頻度の高いものとして知られています。発症原因として、[1]腱への直接の外力、[2]腱を無理に伸ばそうとする力、[3]腓腹(ひふく)筋の強い自動収縮、の3つがあげられますが、[3]の原因が大多数を占めます。また腱断裂は1/3がウォーミングアップの不足で発生しますが、2/3は受傷以前からずっとアキレス腱痛を感じており、腱の変性があったことが原因と考えられます。病型としては新鮮断裂、陳旧性(ちんきゅうせい)断裂、皮下断裂、開放性断裂、完全断裂、不完全断裂に分類でき、その中で新鮮皮下断裂が最も多くみられます。

[症状]

 患者はスポーツ中、アキレス腱を他人に蹴られた、あるいは何かに当たった、棒で殴られたと感じた後にアキレス腱部に痛みを感じ歩行不能となる例が多いようです。足裏をベタリとつければ歩くことはできますが、爪先立ちはできません。そして断裂部がくぼみ、押すと痛みが感じられます。

[診断]

 触れると、アキレス腱から2~6cmがへこんでおり、押すと痛みがあります。また皮下出血を認めることもあります。腹ばいになって膝をのばして下腿の中央をつかむと、正常では足関節の底屈(足関節が足底に向かう運動)が起こりますが、腱断裂があると足関節の底屈はできません(トンプソンのテスト=Thompson-Simmond squeeze test)。
 以上の条件が整えば診断は確実ですが、臨床所見の乏しい例や不全断裂例では超音波検査やMRI検査を用います。完全断裂でも痛みがそれほど強くないこと、ベタ足でならば歩けること、また足関節底屈筋力は長母趾屈筋(ちょうぼしくっきん)、長趾屈筋、後脛骨(こうけいこつ)筋などにより残存していることで本人が受診しなかったり、見落とされたりして陳旧例となることがあるので要注意です。

[標準治療]

 従来は手術療法が主でしたが、1968年のリー(Lea)の報告以来、保存療法も行われるようになっています。そのため私は治療方針として患者さんの意思を尊重するようにしていますが、保存療法は女性で激しい運動、重労働をしない人、また重篤(じゅうとく)な合併症をもつ人などに、手術療法はスポーツ選手、重労働を行う人にすすめています。
 私は保存療法として膝関節を軽く曲げて、足関節最大底屈位(50~60°)で膝上まで2週間のギプス固定を行います。3週目から膝下で足関節を自然下垂位(30~40°)に矯正し2週間のギプス固定を行います。さらに5~6週の2週間は足関節良肢位(0°)に近づけ、ヒールをつけ荷重をかけられるギプス固定を行います。そして7週目でギプスをはずし、足関節ロック付き短下肢装具を作成し、10週で全荷重がかけられるように指導します。13週目からは少しずつ運動を許可しています。手術療法は縫合法としてキイルヒメイヤー(Kirchmayer)法を用いています。
 術後は足関節自然下垂位膝下で2週間のギプス固定、3週目では足関節良肢位膝下で2週のギプス固定でヒールをつけ部分荷重を許可します。5週目より足関節自動運動を許可し、6週目より歩行開始とします。そして3カ月目より軽いスポーツを許可します。

[予後]

 陳旧性アキレス腱断裂に関しては、断端部の傷あとを取り除くとギャップができるため、腱移植が必要となるので、予後はあまりよくありません。しかし新鮮例では保存または手術療法を行っても予後は良好です。

[生活上の注意/予防]

 スポーツなどを始める場合、必ず十分なウォーミングアップをすることです。特に寒い時期には念入りに行いましょう。
執筆者
柳原泰(やなぎはら やすし)
山王病院整形外科部長/国際医療福祉大学臨床医学センター教授/順天堂大学医学部客員教授

【出生年】1946年
【出身校】順天堂大学(1972年卒)
【専門】整形外科
【得意分野】手の外科、外反母趾、筋性斜頸
【外来日】紹介状は特にいりません。山王病院(8:30~11:30、13:30~16:30)順天堂大学(8:30~10:30)、火(山王病院:午前・午後〈予約制〉)、木((山王病院:午前・午後〈予約制〉)、金(順天堂大学:午前〈予約制〉、山王病院:午後〈予約制〉)、土(山王病院:午前・午後〈第1、第3週、予約制〉)
【メモ】誠意を持って患者様を診察・治療いたします。趣味はゴルフ、オペラ鑑賞。
【長所】決断が早い。
【短所】少し気が短い。
【引用・参考文献】
 総監修:寺下 謙三 家庭のドクター標準治療 日本医療企画