医学書

アデノイド・扁桃肥大(口蓋扁桃肥大)

[受診のコツ]

発症頻度:★★★(日常的にみる)
初診に適した科:耳鼻咽喉科
初期診断・急性期治療に適する医療機関:外来診療所/小中規模病院
安定期・慢性期治療に適する医療機関:外来診療所
入院の必要性:外来で可能
薬物治療の目安:急性期や合併症予防のために短期的に使用
手術の可能性:重症度や症状により必要
治療期間の目安・予後:比較的短期(1~2カ月以内)に治癒できることが多い
診断・経過観察に必要な検査:単純レントゲン/その他内視鏡
その他必要な検査:その他()
※受診のコツは、典型的なケースを想定して総監修者・寺下謙三が判断したものです。実際のケースでは異なることがありますので、判断の目安としてお役立てください。なお、項目はあらかじめ全疾患を通して用意された選択肢から判断したものです。

[概説]

 のどの中にはリンパ組織として、1つの咽頭扁桃(アデノイド)とそれぞれ1対の口蓋扁桃(俗にいう扁桃腺)、舌根(ぜっこん)扁桃、耳管(じかん)扁桃の4つの扁桃とが存在しており、そのなかでも重要なのが前の2つです。アデノイドは3~6歳、口蓋扁桃は5~7歳で最も大きくなります。つまりこの年代の小児では大きいのがあたりまえで、大きいことすなわち治療が必要ということではありません。乳幼児ではまだ全身の免疫防御機能が未発達なため、外界に近い上気道に免疫組織を集中させるのが合理的なのです。ですから小学校高学年頃になると体の成長に伴い、これらは次第に退縮していきます。ただし、成人しても扁桃が肥大したままのこともあり、個人差があります。

[症状]

 アデノイド・扁桃肥大が治療の対象となるのは次のような場合です。

《アデノイド》
[1]鼻呼吸の障害
 アデノイドは鼻の後ろにあるため、アデノイドが大きいと鼻からの呼吸がしにくくなります。いつも口をぽかんと開けて呼吸をしている場合はこの可能性があります。

[2]滲出(しんしゅつ)性中耳炎の遷延(せんえん)化
 中耳と咽頭をつなぐ空気の管(耳管)の出口が近いため、アデノイドが大きいと滲出性中耳炎が治りにくくなることがあります。

《口蓋扁桃》
[1]睡眠時無呼吸
 アデノイドの肥大とあいまってあるいは単独で、睡眠時に上気道が閉塞することにより、いびきまたは無呼吸発作が起こることがあります。

[2]摂食成長障害
 口蓋扁桃が大きいために食が細くなったり、飲み込みがうまくいかなかったりして体の発育に影響がでることがあります。

[3]繰り返す発熱、咽頭痛
 扁桃炎が慢性化することにより、年に5回程度38~40℃の発熱を伴う重度の咽頭痛が起こるようになることがあります。

[4]病巣感染扁桃
 A群β溶連菌の病巣になっている場合、腎炎や掌蹠膿疱(しょうせきのうほう)症(手のひらや足のうらの皮がむけてカサカサ毛羽立つ状態になる)の原因となることがあります。扁桃にはまったく症状がないことも少なくありません。

[診断]

 口蓋扁桃は口を大きく開ければ家庭でも容易にみることができます。アデノイドは鼻の後方、のどの上方(上咽頭)に位置しているため側面のX線写真でその大きさを確認します。また細い内視鏡を経鼻的に挿入することにより、直接アデノイドをみることができます。これにより先に述べた耳管の閉塞の有無も観察可能です。

[標準治療]

 概説の項で述べたように、大きいだけで症状がない場合は治療の対象にはなりません。しかし症状の項で述べたような症状がある場合は一般的に手術の適応となります。物理的な閉塞ではなく炎症症状が主体でも、慢性化したり病巣感染扁桃となったりしている場合は、保存的治療では対処できないことがほとんどです。手術は現在ではほとんどが全身麻酔下に行われ、1週間程度の入院を要します。

[予後]

 概説の項で述べたように、乳幼児では扁桃は免疫系としてかなり重要な役割を担っていますが、4歳頃からは全身の他の免疫機能が発達してくるため、手術による極端な免疫力の低下は起こらないと考えられています。通常は3歳までは手術を行いませんが、重篤(じゅうとく)な呼吸障害がある場合などは例外です。
 手術はほとんどの例で症状の項で述べたような様々な症状を解決しますが、声を職業にしている方は共鳴腔(きょうめいくう)の変化によりごくまれに声色が変化することがあるので注意して下さい。

生活上の注意

 扁桃腺やアデノイドを手術でとってしまうことに、かなり抵抗のある方々もまだ多いようです。しかしながら、あまりに重症の場合は耳など他の部位に後遺症を残すこともあるので、専門医とよく相談をしましょう。
執筆者
渡嘉敷亮二(とかしき りょうじ)
東京医科大学病院耳鼻咽喉科教授/新宿ボイスクリニック院長

【出生年】1963年
【出身校】東京医科大学(1990年卒)
【専門】頭頸部外科学、耳鼻咽喉科学
【得意分野】声の病気・悩みすべて、音声外科(声の病気の手術治療)
【外来日】(1)東京医科大学病院:水(午後:音声外来)、(2)新宿ボイスクリニック:ホームページをご参照ください
【メモ】旅行、 読書、 音
【長所】
【短所】
【引用・参考文献】
 総監修:寺下 謙三 家庭のドクター標準治療 日本医療企画