先生の声
家族みんなで熱中症対策
夏になるとニュースなどでも耳にすることが多くなる「熱中症」。正しい知識を身に付けて、家族を熱中症から守りましょう。
知っておきたい「熱中症」の原因・症状・対策方法などについて、名取中央クリニック院長の洞口淳(ほらぐち じゅん)先生にお伺いしました。

そもそも「熱中症」とは?

洞口先生:熱中症とは暑熱環境で起こるからだの障害の総称であり、程度の軽い「熱疲労」状態から、生命の危機に直結する「熱射病」まで病態は様々です。

熱中症は炎天下での激しい運動などで生じるイメージがありますが、それほど気温の高くない環境や屋内などでも発生します。特に高齢者や乳幼児では、日常生活の中で起こる「非労作性熱中症」の頻度が高く、重症化するケースも少なくありません。

▲熱中症が起きるメカニズム

ここで熱中症が起きるメカニズムについて簡単に説明します。人間の体には、周りの温度が変化しても体温を一定に保つ機能が備わっています。すなわち体の中で熱の産生が過剰となると、熱を体外に逃がす機構が常に働きます。これら熱の「生産」と「放散」のバランスが崩れた時に起こるのが熱中症です。

体内での熱産生は主に筋肉や肝臓で行われる為、特に運動時などでは筋肉で大量の熱が作られます。産生された熱は皮膚を通じ、対流や汗をかく事などにより体の外へ逃がしますが、熱中症では過剰の熱産生に加え熱放散の効率が低下します。つまり体の中に熱がこもった状態になると熱中症が発生するという訳です。

当てはまったら要注意!熱中症の主な症状

洞口先生:熱中症の初期には皮膚の細かい血管が拡がる事で血圧が低下し、脳への血液の流れが減少する為、めまいや立ちくらみなどの症状が現れます。

汗をかいて「脱水状態」になると、手足の痙攣やこむら返りなどが出現します。これは多量に汗をかく事により、水分と共に塩分 (ナトリウム) も失われる為に起こる現象です。その後脱水が進むと、だるさや吐き気、頭痛などが起こり、思考力の低下がみられます。

さらに熱中症が進行し、水分や塩分の補給が追いつかないような状態になると応答が鈍くなり、言動困難や意識障害、体温の上昇がみられるようになってきます。このような場合には重度の熱中症である可能性が極めて高く、救急医療機関での対応が必要となります。

熱中症になりやすい環境条件としては、気温の上昇が最も重要な要因として挙げられています。特に梅雨明け前の連続した晴天の日や、梅雨明け直後で暑さに慣れていない7月下旬~8月上旬は熱中症の発生が最も多く注意が必要です。また気温だけでなく湿度や風速、日射なども熱中症の発症に大きな影響を与えます。気温がさほど高くなくても湿度が高く風通しの悪い環境や、長時間強い日差しにさらされる状況はできる限り避けて下さい。

最近では気温、湿度、日射などの気象条件を組み合わせた「暑さ指数 (WBGT: Wet Bulb Globe Temperature)」が熱中症予防に活用され、指数に基づいた日常生活や運動の指針などが示されています。

熱中症になりやすい人の特徴として、体力のない人や肥満の人、病気や疲労などで体調の悪い人が挙げられます。一般的に熱中症は男性に多く発症し、若年男性はスポーツ、中高年の男性では働き過ぎ・無理のし過ぎによる発生頻度が高いとされています。

スポーツでは陸上などのグラウンド競技で重症化率が高く、労働では土木や製造業などの肉体労働で発生頻度が高くなっています。また体温の調節がうまくできない乳幼児や、体内の水分量が少ないお年寄りは他の年代に比べ熱中症が発生しやすくなります。

熱中症にならない為には

洞口先生:まずは自身の体調を整える事が第一です。十分な休養と栄養をしっかりとりましょう。服装は軽装とし、吸湿性や通気性の良い素材を身に付けましょう。屋外では帽子や日傘などを利用し、直射日光を防ぎましょう。屋内では冷房機器を適度に使用し、温度湿度の管理を行って下さい。

運動や肉体労働を行う際は水分補給を行い、しっかりと休息をとりましょう。特に運動をする際には日中の暑い時間帯は避け、朝や夕方などの涼しい時間帯を選択しましょう。休息は30分に一回はとるようにして、水分をこまめに摂取しましょう。たくさん汗をかいた状況で水だけを飲んでいると体内の塩分 (ナトリウム) 濃度がさらに低下する為、0.1~0.2%程度の食塩 (1Lの水に1~2gの食塩)が含まれている飲み物を摂取しましょう。

また水分の吸収を早める為に、糖分の入った飲み物を選択する事も大切です。スポーツドリンクは飲料水として手軽に購入でき熱中症の予防に有用ですが、塩分量が少なく糖分が多く含まれている事を認識しておきましょう。最近では水分と塩分、糖分がバランスよく含まれている経口補水液が市販されており、熱中症の予防や治療に広く用いられています。

最後に、熱中症は早期発見、早期治療が大切です。少しでも体調が優れない場合には、水分補給を行い、早めの休息をとりましょう。十分な熱中症対策を行い、暑い夏を元気に乗り切りましょう!
執筆者
医療法人社団洞口会 名取中央クリニック 院長
洞口 淳 先生

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