先生の声
天候と頭痛との関係?梅雨ですね、頭痛ひどくなっていませんか??
毎年、梅雨や台風の季節が近づいて来ると、頭痛外来ではよく「天気が悪くなる前に頭痛が起きるんですよ」「梅雨の季節はいつも頭痛がひどくなるので心配です」などという声が聞かれます。また、頭痛もちの人に「天気予報ができますか?」とたずねると、「はい!」と答える方も結構いらっしゃいます。片頭痛を起こすきっかけとしては、ストレス、女性ホルモンの変動、空腹、睡眠障害、におい、光、飲酒、喫煙などが知られていますが、片頭痛患者の約50%において、天候の変化によって頭痛が誘発された経験があるという報告があります1)。実際、クリニックでも天気が崩れる前に頭痛患者さんが増えることもありますし、気温や気圧の変化によって頭痛患者の救急外来への受診率が変わるという報告もあります2)。どうやら天候と頭痛はとても密接な関係にありそうです。今回はこの「天候と頭痛との関係」について、これまでの科学的な報告も紹介しながら考えてみたいと思います。

なぜ天気が悪くなると頭が痛くなるの?

昔からよく「古傷がうずくと雨が降る」と言いますね。なぜでしょう?これにはいくつかの説がありますが、その一つとして自律神経が関係していると言われています。雨が降る前には気圧が低下しますが、その変化を体が感知し脳の視床下部を通じて交感神経活動が活発になります。その結果、ノルアドレナリン(NA)と呼ばれる物質が血中に放出され、痛みを感じる神経を刺激します。また、NAは血管を収縮させたり、血液中のマクロファージや肥満細胞を活性化させたりしてヒスタミンやTNFαと呼ばれる物質を放出し神経を刺激します。さらに、副腎髄質にも働きかけてアドレナリンを分泌し、同様に痛みを感じる神経を刺激します。普通の状態では、気圧が下がって痛みを伝える神経が刺激されたとしても、痛みを感じることはほとんどありません。しかし、あらかじめ神経が傷ついて炎症などが存在すると、正常時では認められなかった交感神経に反応する回路が新たに出現するため、気圧の変化で痛みを感じるようになってしまいます。そのため、古傷をかかえた人は気圧の変化に敏感で天気予報ができるようになり、頭痛持ちもこれと同じ仕組みで気圧の変化に敏感になっていると考えられます。

気圧、気温、湿度、何が一番影響するの?

天候の状態としては、特に、雨、低気圧、高湿度、明るい日差しが影響し頭痛のきっかけになることが多いようです3)。顎関節症患者と片頭痛患者における頭痛について、気温、気圧、湿度で変化があるかどうかを比べた報告があります。痛みの変動自体は顎関節症で大きかったのですが、天候の変化で痛みにより影響を受けやすかったのは片頭痛のほうで、特に気圧と気温の変化が関係していました。一言で痛みといってもその原因となる病気によって影響の度合いが違うようです4)。しかしながら、気圧が低ければ低いほど頭痛が起きやすいと言うわけではなく、平均気圧を1013hPa(ヘクトパスカル)とするとそこから6〜10hPa低い1003〜1007hPaで最も片頭痛が悪化しやすかったそうです5)。また、気圧が5hPa以上低下する前日に頭痛が起きやすく、5hPa以上高くなる2日前に頭痛が改善するとも報告されています6)。

季節は関係するの?

日本の平均気圧は春から夏にかけて低くなり、秋から冬に高くなる傾向にあります。その影響でしょうか、ある調査では頭痛の頻度も5月から10月に高くなり、11月から4月には少し低くなるようです。年間を通して頭痛が一番多い月は9月で、これは台風による影響があるのかもしれません6)。また、これは台湾からの報告ですが、片頭痛患者の約半数が温度の変化に敏感であり、特に冬に影響を受けやすかったそうです7)。しかし、台湾は冬といっても平均気温が16〜18℃で湿度も75〜80%であり、これはよく考えると日本の梅雨時期の天候にとても似ています。

天候の変化による頭痛への対処方法は?

天候は人の手で変えることはできませんし、その変化は避けることのできない頭痛のきっかけになりえます。また、片頭痛のメカニズムは複雑であり、さまざまな要因が頭痛を起こす引き金になりますが、全員が同じ誘因を持つわけではありません。最近は、天候や気圧の変化を予想し頭痛の発症を予測するスマートフォン用のアプリケーションなども開発され、話題になっているものもあります。頭痛持ちの人は、日頃からこういったアプリケーションや、古典的ですが頭痛ダイアリーを記録することで自分の頭痛の特徴を把握すると良いでしょう。そうすることで、生活リズムをつかみやすく、また上手に薬を使うことができるようになり、頭痛がこじれやすい季節も気楽に乗り切れるようになってくるのではないでしょうか。

日本頭痛学会主催の「頭痛解消のための市民公開講座」が2019年7月14日(日)に、TKPガーテンシティ仙台21階で開催されます。 目からウロコのお話を聞くことができます。また頭痛について患者さんと専門医が語り合います。ご興味のある方は、是非、お気軽にご参加ください。

講演名 : 頭痛解消のための市民公開講座(日本頭痛学会2019、仙台)
日時 : 2019年7月14日(日) 午後2時~午後4時
会場 : TKPガーデンシティ仙台21階 (宮城県仙台市青葉区中央1-3-1 AER21F)

参加には事前申込が必要となります。こちらよりお申込みください。

参考文献
1) Kelman, L. The triggers or precipitants of the acute migraine attack. Cephalalgia 27, 394-402, doi:10.1111/j.1468-2982.2007.01303.x (2007).
2) Mukamal, K. J., Wellenius, G. A., Suh, H. H. & Mittleman, M. A. Weather and air pollution as triggers of severe headaches. Neurology 72, 922-927, doi:10.1212/01.wnl.0000344152.56020.94 (2009).
3) Prince, P. B., Rapoport, A. M., Sheftell, F. D., Tepper, S. J. & Bigal, M. E. The effect of weather on headache. Headache 44, 596-602, doi:10.1111/j.1526-4610.2004.446008.x (2004).
4) Cioffi, I. et al. Effect of weather on temporal pain patterns in patients with temporomandibular disorders and migraine. J Oral Rehabil 44, 333-339, doi:10.1111/joor.12498 (2017).
5) Okuma, H., Okuma, Y. & Kitagawa, Y. Examination of fluctuations in atmospheric pressure related to migraine. Springerplus 4, 790, doi:10.1186/s40064-015-1592-4 (2015).
6) Kimoto, K. et al. Influence of barometric pressure in patients with migraine headache. Intern Med 50, 1923-1928 (2011).
7) Yang, A. C., Fuh, J. L., Huang, N. E., Shia, B. C. & Wang, S. J. Patients with migraine are right about their perception of temperature as a trigger: time series analysis of headache diary data. J Headache Pain 16, 533, doi:10.1186/s10194-015-0533-5 (2015).
執筆者
仙台頭痛脳神経クリニック院長:松森 保彦
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