先生の声
乳がん術後放射線治療による新型コロナウィルス肺炎への影響について

乳がん手術後の放射線治療では免疫力低下は考えにくい

先ごろ、乳がん手術後に放射線治療を行っていた患者さんが新型コロナウイルスによってお亡くなりになったことで、一部では放射線治療により免疫力が低下し、それが原因で劇症化したのではないかというコメントを散見いたします。

放射線治療によって重症化したのではないかという誤解が生じ、現在放射線治療を受けている方、または予定されている方、すでに治療が終わっている方から不安の声をお聞きしております。

今回は、一般論として、放射線治療と新型コロナウイルスの関連性をご説明いたします。

尚、公益社団法人日本放射線腫瘍学会のホームページにもコメントが出ておりますので、ご覧ください。
https://www.jastro.or.jp/customer/news/20200425.pdf

新型コロナウイルス感染予防時期における放射線治療

早期の乳がんであれば、乳房温存手術と言われる治療を受けた後に、再発予防として術後放射線治療というものがよく行われています。この治療では一般的に手術した乳房全体へ放射線治療を実施します。

その際には肺への影響をさけるように斜め前からと斜め後ろから乳房を挟み込むように放射線治療が実施されます。この治療では肺はわずかにかすめる程度であり、照射範囲に含まれる組織のほとんどが乳腺組織と脂肪組織となります(下記図)。

この一般的な乳がん術後放射線治療で免疫力が落ちるというようなことは基本的には考えられません。

そのため新型コロナウィルスによる重症肺炎を恐れて、感染がまだない方が放射線治療を中止するべきではないと考えます。

ただし、放射線治療の多くは1~2か月ほどかけて連日治療を行います。そのため通院などで他者と接する機会が多く、感染の機会が増える恐れがあります。 これを考慮して、通常よりも短期間で放射線治療を実施することが行われています。特にこれまでに治療回数を変更しても治療効果は変わらないという明確なエビデンスがあるような疾患で始められています。

また、今回の乳がん術後の再発予防放射線治療の中でも特に再発リスクがそれほど高くない方などでは放射線治療を避ける、あるいは延期するということが行われています。ですが、これをご自分で判断するのは大変危険ですので、主治医の先生また放射線治療担当医とよく相談し、どうするか決められるのがよいかと思います。

最後に

上記以外にも、当施設の現場での対策として、入院患者さんと外来通院患者さんの治療の時間帯を分ける、待合室の椅子の間隔を空ける、患者さんに接する診療放射線技師を固定化する、医師の病棟と外来と担当を分ける、医療スタッフはマスク着用に加え、フェイスシールドを付けるなど、患者さんと医療スタッフを感染からできるだけ守りながら、診療制限とならないように工夫をしております。

がんを患うだけでも大変であるのに、新型コロナウイルス感染拡大の懸念から、患者さんは大変な不安と混乱があるものと思います。がん治療を途中でやめることや方針を変えることで、再発の危険性が高くなったり、がんの進行が早くなってしまうこともあります。治療に対するご不安があるときには主治医と専門医に相談することを強くお勧めします。


神宮先生のインタビュー動画も掲載してます。
こちらも合わせて、ご覧ください。
(https://miyagi.doctor-search.tv/voicedetail/MIYAGI-DVOICE-5000017)
執筆者
東北大学病院
放射線治療科 科長 神宮啓一先生
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