先生の声
新型コロナウイルス感染症とがん治療

新型コロナウイルス感染症とがん治療

令和2年になって新型コロナウイルス感染症が世界的な流行となる中、日本においても2月中旬から徐々に新型コロナウイルス感染症が全国に広がり、4月16日には安部首相から全国に緊急事態宣言が発出されました。この全国向けの緊急事態宣言により新型コロナウイルス感染症が収束することが期待されますが、現時点では新型コロナウイルス感染症患者は増加を続け、地域医療崩壊の危機が叫ばれています。

重症の新型コロナウイルス感染者に対する医療が十分に行われなくなる可能性と同時に、がんや生活習慣病のような慢性疾患ならびに外傷などの急性期疾患の治療が滞る可能性があり、行政や医療従事者の危機感はもとより、患者の皆様には不安を感じられる方が日々増えてきていると思います。とりわけ、がん治療を受ける患者の皆様には自分の治療が中止や延期になるのではないか、あるいは中止や延期をしたほうが良いのではないか、と心配される方がいらっしゃいます。

がん治療と新型コロナウイルス感染症のリスク

新型コロナウイルス感染症はこれまで人類が経験していない新しい感染症であるため、これまでの医学的な経験が全く蓄積されていません。

また、必要な治療薬やワクチンが開発は今まさに開発途上であるため、できるだけ社会の中に感染が広がらないように国を挙げて感染症対策を行っています。これまでの海外の論文から、新型コロナウイルス感染者の中で、前月に手術や化学療法(抗がん剤による治療の一種)を受けた患者は重症化しやすいことが報告されています。

また、高齢者、呼吸器疾患、糖尿病などの基礎疾患を有する患者は重症化しやすいとされ、新型コロナウイルス感染者の中でもより注意必要です。最近の国内の調査によるは、70才以上の高齢者の新型コロナウイルス感染よる死亡率は10%以上であり、60才未満の1%以下と比べて明らかに高率です。

がんの診断と治療の延期や中止は考えるべきか

日本では毎年100万人以上ががんと診断され、37万人以上ががんで死亡しています。日本人の死因の第1位は1981年以降がんが第1位です。一般的にがんは早期に発見されれば治癒しますが、診断が遅れて進行がんとして発見されると手術後に一定の割合で再発するため多くの場合再発抑制のための抗がん剤治療(述語補助化学療法)が行われます。

また、さらに進行して発見されると手術が困難であるため、できるだけ患者の生命予後を改善するように抗がん剤や放射線治療が行われます。進行がん患者のがんによる死亡リスクは、その患者が新型コロナウイルスに感染し、かつ同感染症で死亡するリスクよりも明らかに高いと予測されます。従って、進行がんの治療(手術、化学療法や放射線治療)は出来るだけ延期しないで行う必要があります。

延期や中止を考えても良いケースは?

このように進行がんの場合は、出来るだけ早く治療を受けるべきで有り、放置すれば生命予後に重大な影響があるので治療は延期せずに予定どおり受けるべきです。しかし、新型コロナウイルスに感染すると死亡リスクが高い高齢者や併存疾患がある方で、手術後の再発リスクが必ずしも高くない場合や比較的進行が緩徐な転移がんの場合では、感染した際の死亡リスクに比べて治療による利益(リスク・ベネフィッット)が小さいと判断されるので、延期や中止は考慮しても良いと考えます。その場合、延期や中止の決定は、がんの種類、ステージ、年齢や併存疾患の有無、地域の流行状況等によって主治医と相談して決めて下さい。一方、早期がんが疑われる場合の精密検査は1ヵ月以内程度の延期は考慮しても生命予後への影響は小さいと考えます。

学会が患者さん向けのQ and A

このように、社会に新型コロナウイルス感染症が拡がる状況下では患者さんにとって検査や治療の可否を判断することが大変難しい状況にあると思います。公益社団法人日本臨床腫瘍学会では4月14日にがん患者向けのQ and A集を学会のホームページに公開しました(https://www.jsmo.or.jp/)

例えば、抗がん剤治療のための病院への受診回数を減らすために、2週間毎に来院が必要な治療から同等の効果で3週毎の来院で済む治療法への変更や、注射薬から内服薬への変更などが患者さんの状態によって可能であることなどが記載されています。主治医との相談の際に是非参考にしてください。新型コロナウイルス感染症は正に新しい感染症なので、がん医療従事者にも医学的な経験が全く蓄積されていません。がん医療従事者も手探りの状態です。

このため、同学会では4月21日にがん医療従事者向けのQ and A集を学会のホームページに公開しました (https://www.jsmo.or.jp/)

新型コロナウイルス感染症が終息しより良いがん医療がいままで通りに継続できることを切に祈っています。それまで患者と医療従事者が協力しながら、この難局を乗り切りましょう。




石岡先生のインタビュー動画も掲載してます。
こちらも合わせて、ご覧ください。
(https://miyagi.doctor-search.tv/voicedetail/MIYAGI-DVOICE-5000014)
執筆者
東北大学病院 腫瘍内科
科長 石岡 千加史 先生
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