先生の声
こどもと新型コロナウイルス感染症

どう防ぐ?どう乗り越える?こどもの新型コロナウイルス感染症

 こどもの新型コロナウイルス感染者の報告数は、大人に比べると圧倒的に少ないのが現状です。こどもが感染しにくいという訳ではなく、大半が感染しても軽い風邪と見分けがつかないほどの症状で済んでしまうために見逃されているのでしょう。発熱、咳、息切れなどほとんどの症状が、大人よりも少ないようです。重症になる頻度、死亡率も、年齢が上がるにつれて高くなる傾向にあります。でも、こどもが絶対に重症化しないという訳ではありませんし、感染拡大の要因にならないためにも、正しい知識を持って過ごしましょう。

 どうしたら感染を防げるの?感染したかもしれないと思ったら、どうしたら良いの?予防接種は打ちに行っても大丈夫?小児感染症科医の立場から、皆様の疑問にお答えし、少しでも不安を解消していただければと思います。

どうしたら感染を防げるの?

 感染しない・感染を広げないためにやるべきことは、子供も大人と同じです。こまめに、しっかり、手を洗うこと。そして、外出を控え人との距離を保つこと。

 小さなお子さんは、咳エチケットも守れないし、マスクも嫌がってつけてくれませんよね。手で口をぬぐってみたり、鼻に指を入れてみたり…。ですから、手洗いが非常に重要です。タイミングは、帰宅後すぐ(出来るだけドアノブや電気のスイッチに触れる前に)、トイレの後、ご飯やおやつを作る前、食べる前です。そして、しっかり時間をかけて洗うこと。医学界で感染予防に効果があるとされている手洗いは、石鹸・流水で20~30秒です。
 実際に計って頂くと、結構長いな、と感じられると思います。砂時計やタイマーを置いてみたり、お子さんと歌を歌ってみてはいかがでしょうか。例えば「ABCの歌」「キラキラ星」が大体30秒、「ハッピーバースデーの歌」や「ぞうさん」などは2回繰り返すと30秒です。

 石鹸の洗い残しは手荒れの原因になり、ヒリヒリして手洗いが嫌いになってしまいます。よく流して、よく拭くところまで親御さんが見てあげられると良いですね。この機会に正しい手洗い習慣を身につけることは、ポストコロナ時代を生きていくお子さんにとって、きっと大きな財産になります。

風邪症状があるときの病院受診のタイミングと、家での過ごし方

 こどもの場合、風邪と見分けがつきにくい新型コロナウイルス。では、風邪を引く度に電話相談をしてPCR検査を受ければ良いのかというと、そうではありません。急いで病院を受診して薬をもらわなきゃ、と焦る必要もありません。まずはお家で安静にしてください。
 コロナウイルスにもそれ以外のウイルスによる風邪にも、抗菌薬は効きません。咳止め、痰切り、鼻水止めのお薬も、効果は限定的で、副作用が問題になるものもあります。普通の風邪でも熱が2-3日続くことはよくありますし、咳は大体3-4日目をピークに、1週間以上、長いと数週間かけ良くなっていくのが自然の経過です。相談・受診の目安は、感染者と接触してしまった場合や、37.5度超が4日以上・呼吸が苦しそう、ぐったりしている、食事や水分が摂れないとき、で良いでしょう。
 お子さんに風邪症状があるときに、食べ残しを親御さんが食べるのは止めましょう。唾液の中にもウイルスがいるからです。
 その他、厚生労働省の資料「家庭内でご注意いただきたいこと」が参考になります。

 重症化に注意が必要なのは、1歳未満の赤ちゃんと、喘息などの呼吸に関わる病気、心臓・血管の病気、免疫が抑えられている状態や病気を持つお子さんです。気になる症状があれば、早めにかかりつけ医に相談しましょう。

画像出典:厚生労働省HPより

症状がないときの過ごし方は?予防接種は受けに行っても良い?

 一斉休校、在宅勤務推奨、外出自粛。限られた空間で過ごす日々に、大人もこどももストレスが溜まっていることと思います。さらに、運動不足、友達に会えない寂しさ、学習の遅れ、スマホやテレビの見過ぎなど、こども特有の様々な問題が親御さんを不安にさせていることでしょう。難しいとは思いますが、出来るだけ普段と変わらず規則正しい生活を心がけましょう。
 ご家庭での過ごし方も、正解はひとつではありませんので、ぜひ色々試行錯誤してみてください。比較的感染リスクの少ない活動は、家の周りのお散歩、広い公園で走り回る、自家用車でドライブ、などでしょうか。屋外でも、遊具などを介すと感染リスクは高まるので注意が必要です。

 小児科医として強く強調したいのは、「予防接種は不要不急ではない」、ということです。予防接種で防げる病気は、どれも感染すると命に関わったり、後遺症が残ったりする病気です。それらの病気にかかりやすい年齢になる前に接種しておくことが重要で、適切な接種時期が定められています。是非、接種の機会を逃さずに、進めて頂きたいと思います。

こどものコロナウイルス感染症を巡る医療現場の問題点

 こどもの感染に関する国内外の報告の多くは、親御さんからの感染でした。ところが、宮城では保育所・英語教室でのクラスターが発生したことで、こどもだけ感染、他の家族は未感染、という状況が多発しました。こどもの入院に、未感染の親が付き添う?でももし親が感染したら重症化する危険性がある。それとも、こども一人で入院させる?でもウイルスが排泄されなくなるのには何日もかかる…。医療機関の選定など、非常に難渋しました。

 お子さんは多くの場合に身の回りのことに介助が必要であり、一方で行動の抑制が難しく、入院するとなると、医療従事者への感染伝播や院内感染のリスクが高いことも問題です。医療的ケアが必要なお子さんとなると、さらにそのリスクは高まります。
 加えて、こども一人きりの入院では、家族から長期間引き離されるこどものメンタルケアなども問題になるでしょう。現在、軽症な小児患者さんには自宅療養やホテル療養をして頂き、小児科医が定期的に診察を行う、といった、お子さんの安全・医療体制をどちらも守れる体制構築に向けて、行政と小児科医が協力して取り組んでいます。

読者の皆さまへのメッセージ

 人間は、未知の物に対して恐怖心を持ち、恐怖心は偏見や差別を生みます。大人や、医療従事者の中でも、誤った知識や恐怖心から、新型コロナウイルスに感染した人やそのケアを行う人に対して、差別をしてしまう、偏見をもってしまうことが問題になってきています。大人の姿を見て、こどもは真似をします。
 例えば、学校が再開になったとき、コロナウイルスに感染したお子さんがいじめを受けたり、肩身の狭い思いをしたりしないといいな、と心配しています。親御さんには、イメージや感情ではなく正しい知識に基づき、現在の状況と冷静に向き合う姿を、お子さんにみせてあげて頂きたいと思います。

 おうちでお子さんと一緒に過ごす時間が増えたこのタイミングで、是非一度、お子さんの目線に立って、コロナウイルスについて一緒に考えてみてください。「コロナウイルスって何なの?」、「どうして遊びに出かけたりお友達に会えなくなってしまったの?」、「どうして沢山手を洗わないといけないの?」、「もしも自分や家族、友達が感染したら?」。 いま、自分にできることを、一緒に考えていきましょう。


谷河先生のインタビュー動画も掲載してます。
こちらも合わせて、ご覧ください。
(https://miyagi.doctor-search.tv/voicedetail/MIYAGI-DVOICE-5000016)
執筆者
宮城県立こども病院
リウマチ・感染症科 小児科専門医 谷河翠 先生
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