先生の声
世界糖尿病デー

世界糖尿病デーとは?

 わが国の糖尿病人口は平成28年(2016)の国民健康栄養調査の結果、糖尿病が強く疑われる人1,000万人、糖尿病を否定できない人1,000万人と推定されました。その後コロナ禍となり、同様の調査は行われていませんが、令和元年(2019)の国民健康栄養調査では、糖尿病が強く疑われる人の割合は男性19.7%、女性10.8%でした。この10年間でみると男女とも有意な増減はないとのことです。では世界規模に見るとどうでしょうか。国際糖尿病連合(IDF)の調査によりますと、2015年の世界の糖尿病人口は4億6,300万人でしたが、2021年には5億3,700万人に上っておりました。2045年には約7億人に達すると試算されています。
 世界的状況を鑑みて、国連と国際糖尿病連合(IDF)は11月14日を「世界糖尿病デー」に指定しています。 国連と空を現わす色の「ブルー」と団結を現わす「輪」を シンボルマークとし、世界各地で糖尿病の予防、治療、療養を喚起する啓発運動を実施しています。

 宮城県では11月13日~19日 17:00~22:00、仙台城跡本丸伊達政宗公騎馬像、仙台放送大年寺山送信所鉄塔:スカイキャンドルをブルーにライトアップし啓発活動を行っています。この機会に「糖尿病ってなんだろう」と考えていただければと思います。

糖尿病で苦労している方、そして血糖値の気になっている方へ。糖尿病って何なのでしょう?

 私たちの遠い遠い祖先は海での生活から陸上に上がってきた魚類です。肺で呼吸するとともに、海水から取り放題だった塩分がほとんど摂取できない環境に対応して進化しました。その後裔として最も繁栄している哺乳類が現生人類ホモサピエンスでしょう。現生人類は高度な文明を築くことで、食料を増産し自分の足で歩かなくても移動できる仕組みを作りました。自動車です。文明形成以前には病気以外でも生存競争に敗れると餓死が、餓死の前には栄養不良による低血糖が当たり前でしたが、動けなくなると今度は天敵の餌食となりますから、血糖を下げない仕組みを二重三重に備えました。

 私たちの体の構造の設計図DNAの想定は、高血糖対策ではなく低血糖予防を柱としているのです。甘いものを発見し食べたときには美味しいという快感を感じますが、これはDNAからの「よく見つけた,よくやった」というご褒美です。ですから何としてもまた食べたくなります。
 同様に低ナトリウム血症ギリギリで生きていると、些細な怪我で出血するだけで血圧が下がり、すぐにショックとなって天敵の餌食になってしまう運命から、塩を摂ることにも同様にDNAからのご褒美として、美味しいという快感が得られるのだと思います。海水から食塩を作ることも数百年前まで簡単ではなかったそうです。

 現代人は現生人類のDNA形成期とはあまりにもかけ離れた社会環境で生きることになりました。膵臓の膵島と腎臓が生活習慣病として被害を受けやすいのは、遺伝子、DNAの想定していない脂肪、砂糖、食塩などの特殊な栄養成分の大量摂取が普通になったこと、そして移動手段が大きく変わったことが大きいようです。
 生物の進化の歴史から見て特殊な栄養素を現代生活では大量にとり続けることが可能となりました。DNAの進化の歴史から見た普通ではない栄養素の大量摂取と車による移動での運動不足で、膵臓の膵島が激しく疲弊します。そうすると、食物から得られた栄養成分がブドウ糖となって体内の各所で栄養として有効に使用されていた正常の代謝が進まなくなり、ブドウ糖のまま血管の中を回り続け、最後には尿糖として排泄されてしまうのが糖尿病の本態です。高度文明を築く前の生物体内の常識からは、ブドウ糖という大事な栄養を排泄してしまうなどということはあり得ないことで、DNAの最大の想定外ということができるでしょう。腎臓から出て行く前に高濃度のブドウ糖が血管に染みつくことで合併症が引き起こされますが、これらはすべてDNAの想定外の連続なので無症状が続くのだと私は考えています。

療養の合い言葉は「膵島(膵臓)を大事にすれば血糖は良くなる」

 そんな糖尿病ですが、世間で思われていることと糖尿病の実態はかなり異なります。一生治らないと決める前に、疲弊しきった膵臓の中の膵島の回復を考えることが先決です。私たちの経験からは早い取り組みが有効です。
 腹ペコを我慢するのが食事療法とよく思われていますが、野菜やこんにゃくばかり食べなくても、普通の食材をしっかり食べて問題ありませんのでご安心下さい。昔からの食材をバランスよく食べればいい、これが基本です。脂肪と砂糖と塩分の大量摂取の継続がなければ膵臓は復活でき、動脈硬化の進展も改善するでしょう。これが食事療法のねらいです。運動療法はする方が健康管理しやすいのは間違いありませんが、仕事で運動できない方も食事療法のコツをつかんで下さい。運動なしでも大きな支障なく改善の結果が得られます。

 一方、様々な現代的トレンドとしての治療情報が提唱されているため、迷う方がとても多いことは気の毒です。人気のある糖質制限食でうまく行かなくなって紹介状を持って受診される方が後を絶ちません。それぞれの治療法には細かいノウハウがあるのですが、習得する前に悪化が進んでいる方が大部分です。うまく行かなかったのは結果的に膵臓が元気になる方法ではなかったということになります。

 健康によいという耳障りのよいトレンドの治療法から、膵臓を大事にする食事療法に変更すれば改善します。お米のご飯を食べておかずも食べる、バランスの取れた定食で大丈夫です。ぜひ糖尿病や生活習慣病に詳しい専門医に早めにご相談下さい。

(東北医科薬科大学若林病院 病院長 赤井 裕輝)

糖尿病と歯周病の相互関係

 糖尿病の第六の合併症とされているのが、歯周病です。歯周病とは歯と歯ぐきの境目の歯周ポケットと呼ばれる隙間に細菌がたまり、歯ぐきが腫れたり、歯を支える骨が溶かされていく病気です。進行すると歯を支えられなくなって、ぐらぐらし抜けてしまうことになります。糖尿病の患者さんでは、免疫機能の低下、毛細血管の障害などが起こり、感染しやすくなったり、傷の治りが悪くなったりします。そのため、歯周病にかかりやすくなり、また重症化しやすくもなります。

 一方、歯周病があることによって、糖尿病が悪化することも分かっています。歯周ポケットの面積はすべて合わせると手のひらサイズほどにもなり、その範囲の炎症から細菌の毒素や炎症性物質が血液にのって全身に回ります。その結果、インスリンの効きが悪くなり、血糖値のコントロールが悪くなります。よく噛んで食べられないことによって糖尿病が悪化しやすくもなります。

 歯石をとる等の歯周病の治療を行い、糖尿病の数値が改善した例も多くみられます。歯周病は悪化するまで自覚症状が出づらく、ご自身では気付きづらいため、歯科医院で検診を受け、早期発見、重症化予防していきましょう。

(宮城県歯科医師会 伊藤 雅之)

世界糖尿病デー実行委員の活動

 2015年より、世界糖尿病デーにちなみ、糖尿病の予防や正しい知識の普及を目的として、糖尿病患者さんに関わる宮城県内の医療スタッフ(医師、歯科医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、歯科衛生士など)や、学生ボランティアが集結し、宮城県歯科医師会館1F(宮城・仙台口腔保健センター)でイベントの開催や街頭での広報活動を行ってきました。しかし、2020年~2022年までは新型コロナウイルス感染症予防のためイベントや街頭での広報活動は中止していました。

 2023年5月、新型コロナウイルス感染症は感染法上の分類が5類に引き下げられました。これを機に世界問尿病デー実行委員会の活動も新しい形で再スタートしております。新型コロナウイルス感染症の経験を振り返り、糖尿病について、健康について考えていただければ幸いです。

(宮城県世界糖尿病デー実行委員一同)

ブルーライトアップ開催情報

世界糖尿病デーin宮城 ブルーライトアップ開催チラシ。
執筆者
東北医科薬科大学若林病院 赤井 裕樹
宮城県歯科医師会 伊藤 雅之
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