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危険な頭痛の特徴について

危険な頭痛の特徴について

頭痛にはさまざまな種類がありますが、その原因によって大きく二つに分けられます。

一つは、片頭痛や緊張型頭痛など検査をしても異常が見つからない、頭痛そのものが病気である一次性頭痛です。いわゆる頭痛持ちの頭痛で、生活に支障をきたすこともあり、困っている方が大勢いらっしゃいます。もう一つは、何かの病気が原因となり症状の一つとして起きる二次性頭痛です。二次性頭痛は、かぜや二日酔いなど日常のありふれたことが原因になることが多いですが、ときにくも膜下出血や脳腫瘍など命に関わる病気が原因となる頭痛もあります。このような怖い病気による頭痛は、症状が強く現れることが多いのですが、まれに軽い症状で発症する場合もあるため厄介です。

頭痛の危険信号(レッドフラッグ)について

2019年に米国神経学会誌である「Neurology」に、危険な頭痛を疑う特徴としての15項目が報告されました。 それぞれ英語の頭文字をとって「SNNOOP10リスト」(スヌープ・テン・リスト)と呼ばれ、実際の臨床の現場でも参考にされています。今回はこの15項目を解説し、頭痛の危険信号について考えてみたいと思います

危険な頭痛を疑う15の特徴、「SNNOOP10リスト」(スヌープ・テン・リスト)とは?

◎発熱を含む全身症状
【S】Systemic symptoms including fever
かぜをひいても発熱しますが、それに項部硬直(くびが硬くなる)や意識がぼんやりするなどの症状が現れた場合には注意が必要です。髄膜炎や脳炎を疑って早期に検査を行う必要があります。

◎新生物の既往
【N】Neoplasm in history
新生物(悪性腫瘍)の既往がある方の場合、脳転移を考えておく必要があります。特に嘔吐やめまい、ふらつきなども伴う場合にはMRIなどの検査を行います。

◎神経脱落症状または機能不全(意識レベルの低下を含む)
【N】Neurologic deficit or dysfunction(including decreased consciousness)
脳・神経の損傷によって発生する症状(神経脱落症状)、例えば手足の麻痺やしびれ、意識がぼんやりするなどの症状がある場合、脳卒中など脳の病気による頭痛も考える必要があります。軽い頭痛でも、特に半身の脱力やしびれがある場合には注意が必要です。

◎急または突然に発症する頭痛
【O】Onset of headache is sudden or abrupt
突然発症する頭痛、特に1分以内に痛みの強さがピークに達する頭痛を雷鳴頭痛と言いますが、これはくも膜下出血をはじめとする脳血管の病気によって発症することがあります。この場合、脳の血管も含めて検査を行います。

◎高齢(50歳以降)で初発の頭痛
【O】Older age (after 50 years)
高年齢で特に高血圧や糖尿病などの基礎疾患がある場合には、二次性頭痛を発症しやすい傾向にあります。

◎頭痛パターンの変化または最近発症した新しい頭痛
【P】Pattern change or recent onset of headache
頭痛持ちの方の頭痛パターンが変化した場合、もしくはいつもと違う頭痛が発症した場合には、新たに別の病気を発症した可能性も考えます。

◎姿勢によって変化する頭痛
【P】Positional headache
頭蓋内圧低下の症状であることもあり、脳脊髄液減少症などで発症することがあります。

◎くしゃみ,咳,または運動により誘発される頭痛
【P】Precipitated by sneezing, coughing, or exercise
キアリ奇形や後頭蓋窩病変(小脳や脳幹の病気)などで発症することがあります。

◎乳頭浮腫
【P】Papilledema
眼球内にある視神経が腫れた状態を指しますが、眼底鏡で眼の中を確認する必要があります。頭蓋内圧亢進を疑う所見ですが、その場合、視覚障害や嘔吐を伴うことがあります。

◎進行性の頭痛,非典型的な症状を伴う頭痛
【P】Progressive headache and atypical presentations
頭痛が徐々に強くなる場合、また非典型的な症状を伴う場合にはやはり二次性頭痛が疑われます。

◎妊娠中または産褥期
【P】Pregnancy or puerperium
血液凝固能亢進やホルモンの変化、分娩時の硬膜外麻酔などにより二次性頭痛の発症リスクが高くなるとされています。

◎自律神経症状を伴う眼痛
【P】Painful eye with autonomic features
流涙や結膜充血などの自律神経症状を伴う頭痛は一次性頭痛である群発頭痛の症状でもありますが、緑内障や角膜障害など眼科の病気と見分ける必要があります。

◎外傷後に発症した頭痛
【P】Posttraumatic onset of headache
頭部外傷で意識がぼんやりしているような場合には、脳挫傷や出血が起きていることが疑われます。特に高齢者では受傷後、数週間から数ヶ月後に慢性硬膜下血腫を発症することがあります。

◎HIVなどの免疫系病態を有する患者
【P】Pathology of the immune system such as HIV
免疫低下により感染症などの発症リスクが高くなります。

◎鎮痛薬使用過多もしくは薬剤新規使用に伴う頭痛
【P】Painkiller overuse or new drug at onset of headache
痛み止めなどの薬の使い過ぎによって元々の頭痛が悪化する「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」も二次性頭痛に分類されます。


以上、「危険な頭痛」を疑う特徴について解説しました。
ただし上記に当てはまるから全てが危ない頭痛とは言えませんし、また当てはまらない危ない頭痛もあります。「いつもと違う頭痛」を感じたら、まずはクリニックや病院に相談してみましょう。

参考文献

Do TP, Remmers A, Schytz HW, et al. Red and orange flags for secondary headaches in clinical practice: SNNOOP10 list. Neurology 92, 134-144, 2019
執筆者
仙台頭痛脳神経クリニック院長:松森保彦
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