先生の声
糖尿病患者さんのCOVID19への対応

糖尿病があると心配?

糖尿病をお持ちの方は、一般的に、感染症にかかりやすい、重篤化しやすいと言われています。

新型コロナウィルス感染症と糖尿病との関係はまだはっきりはしていませんが、海外では糖尿病の方は致死率が高かったといった報告もあります。このような多くの報道により、不安を抱えている糖尿病の患者さんも多く、実際に私も患者さんから心配の言葉を聞くことが多いです。

そこで、糖尿病の方が重篤な感染症にかかりやすい理由、それを知ったうえでの対処法、さらには、万一感染した時の対応法について、ご説明したいと思います。むやみに怖がるのではなく、しかるべき対処法を実行することで不安を軽減していただければと思います。

どうして糖尿病は感染症を悪化させやすい?

糖尿病の方が感染症にかかりやすく、また重篤化しやすいと言われている理由の一番は、血糖値が高いことにより、免疫力が低下するからと考えられています。

血糖コントロールの悪い状態ではウィルスなどを退治する白血球などの免疫細胞の働きが低下し、ウィルスなどが侵入してきた時にそれを抑えきれず感染を広げてしまうことで重篤化するというわけです。

さらに、感染が引き金となった炎症や発熱が原因となって、血糖値を上げてしまうことも多く、結果として免疫細胞の働きが悪くなるという悪循環ができてしまいます。

そのほかに、長期間糖尿病のコントロールの悪い状態が続いているような一部の糖尿病の方は、血管や神経が傷んでしまって血流などが悪くなり、免疫細胞を感染部位に動員しづらいことも考えられています。新型コロナウィルス感染の際も、これらの仕組みが想定されています。

では普段はどのようにすればよい?

このように、糖尿病の方が感染症にかかりやすく重篤になりやすいのには、血糖コントロールが悪いことが大きくかかわっています。つまり、糖尿病があっても血糖コントロールを良くすれば、そんなに恐れなくてもよい、というわけです。ですから、今のような感染が広がっている状況では、普段にも増して、血糖コントロールを良くすることに留意してください。

具体的には、処方された薬をしっかり飲む、インスリンを打っていらっしゃる方も忘れずしっかり注射することがまず第一です。当たり前のことのようですが、実際、外来患者さんの中には薬が余っているとおっしゃる方も多く、飲み忘れ・打ち忘れは、大きくコントロールを崩しますので、この機会に再確認してください。

それから、食事については、間食やジュース類・アルコールなどの飲料でのカロリー摂取を控えることが重要です。糖尿病の食事療法の基本は、カロリーを制限することではなく、生活に必要なカロリーを過不足なく摂取することです。

特に、感染予防の観点からは、極端な食事制限はかえって体力を落としてしまいます。一方で、間食は必要なカロリー摂取ではないですし、飲み物でのカロリー摂取は急激に血糖値を上げる原因になります。多くの方は、この二つを控えるだけでグッとコントロールが良くなります。

血糖コントロールを良くするためには、適度な運動を行うことは重要ですが、不要不急の外出を控えるという要請が出ている中で、運動療法を実践するのは難しいと思います。できる範囲でいいですから、密の状態を避け、家で、あるいは、風通しの良いところで行える散歩やジョギングなどの運動を少しでも取り入れてもらえるとよいと思います。

感染症にかかったらどういう点に気をつける?

新型コロナウィルス感染症を初め、一般にウィルスなどにかかると、炎症が生じ熱も出ます。これらは、血糖値を高くする原因になります。また、血糖値が上がると感染を抑えにくくなりますので、悪循環になってしまいます。これを断ち切るには、感染症の治療と並行して、血糖値の上昇を防ぐ治療を進める必要があります。

この方法は、それぞれの方の糖尿病の状態や使っている薬・インスリン注射薬などによって違ってきます。特に薬によっては、脱水(発熱時になりやすい)のときには飲んではいけないもの、食事がとれないときには使ってはいけないものや低血糖を起こしてしまうものなどがあり、どの薬は続けるか、どの薬は中止するか、インスリンの注射量はどうするかなど、普段からかかりつけの医師と相談しておくことが重要です。まだの方は、次の受診の時に確認しておいてください。

また、高熱が続いた時などは、点滴でインスリンなどを投与しないと、血糖値を改善させ体力を回復させることができない場合もあります。特に高齢の方は脱水になりやすく、このことが重症化につながります。このような場合は、早めに医療機関と連絡を取ってください。

むやみに恐れず前向きに対処を

糖尿病の人は重症化しやすい、といった報道で不安を感じている方も多いと思いますが、決して、糖尿病があるということだけで重症化するというわけではありません。血糖コントロールを良くするよう、この機会に内服や生活を見直してみてください。

また、感染した場合に備え、薬やインスリンの使い方などをかかりつけの医師と再確認しておいてください。そうすることで、感染リスクや重篤化リスクの多くを軽減することができます。また、新型コロナウィルス感染症だけでなく、他の疾患の予防や改善にもつながります。

ですから、むやみに恐れるのではなく、むしろ前向きに糖尿病に取り組んでみましょう。


片桐先生のインタビュー動画も掲載してます。
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(https://miyagi.doctor-search.tv/voicedetail/MIYAGI-DVOICE-5000010)
執筆者
東北大学病院
糖尿病代謝科 科長 片桐秀樹 先生
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