先生の声
子どもの発達とメディア視聴

東北大学 植松先生インタビュー

東日本大震災から10年。
子どもを取り巻くメディア環境の変化と発達について、東北大学病院 小児科の植松 有里佳 先生にインタビューしました。


取材日:2020年12月16日
※ウイルス感染予防に配慮して取材しております。

下記にインタビューの内容をテキスト化しております。
動画が見難い場合は、下記のテキスト版でご覧ください。

長時間のメディア視聴による子どもへの影響は

 インターネットやスマートフォン、オンラインゲームや動画配信、は、ここ数年私たちの日常生活に入り込んできたものです。この動画も、こういった文明の力を使って、配信させていただいているわけですが、テレビ、DVDの視聴だけでなく、インターネットに関するものもまとめて「メディア」と総称し、お子さんの発達とメディアについて今回お話しさせていただこうと思います。

 よく、「スマホに子守をさせないで」や「メディアを見せすぎないように」ということを聞いたことはあると思います。では、実際に「どうしてメディアを見せてはいけないのか?」ということを考えたことはありますか?

 今回、具体的にどんなことがあるから、お子さんの発達にどういう影響があるから、メディアを見すぎてはいけないのかについて、お話させていただきたいと思います。

 2歳以下の時期から長時間のメディア視聴がある場合、後々お子さんに様々な症状が出てくることがあります。「言葉の遅れ」として出てくることがありますし、落ち着かない、イライラしている、相手とコミュニケーションが取れないといったような症状が出てくる場合もあります。

 親御さんとお子さんが、例えば全くメディアがない環境で遊んでいれば、言葉がまだ出ないような時期であったとしても、親御さんがお子さんの様子伺って「どうしたの?」「これして遊ぼうか?」など、いろいろと話しかけたりしますね。
目を見て話しかけたり、様子をみながら一緒に楽しく遊ぶのが、ごく当たり前にできるでしょう。

 しかし、そういった環境の中に、メディアが入ってきた場合にどうなるでしょうか?親御さんが、スマホが気になってしまい、ずっと見ている状況であれば、お子さんが出している反応や小さな声に気づきにくくなってしまうと思います。
逆に、テレビが1日中付けっ放しのような環境であれば、お母さんたちの声もお子さんには届きにくくなってしまい、双方向のコミュニケーションが上手く取れなくなります。

 そういった状況に、ずっと置かれてしまったお子さんは、自分が声を出しても反応し返してもらえない。お母さんの方を見ても、お母さんが全然違うところ見ているという状態のため、だんだん声を出さなくなってしまいます。

 こういったことで、お子さんの言葉の発達は簡単に遅れてしまうと言われています。

 また直接的ではないですが、メディアはお子さんの睡眠にも大きな影響を与えます。今、保育園/幼稚園に通っているお子さん達は非常に多いですね。帰ってくる時間は決まっていて、そこからご飯を食べて、お風呂に入り、寝るというのが日常になりますが、そこに「メディアを見る時間」が入ってきた時、その時間が長くなればなるほど、夜寝る時間は遅くなっていくと言われています。メディアの視聴時間が長くなるほど、就寝時間が遅くなるというわけです。

 お母さん達はお仕事がありますので、朝始まる時間は決まっていて、たとえ遅く寝てもお子さんが朝起きる時間は変わらないため、結局就寝時間が遅くなると睡眠時間自体が少なくなるわけです。
 メディアの直接の影響がなくても、睡眠時間が短くなることによって、お子さんは「朝ごはんが、食欲がなくて食べられない」、「眠くて日中活動ができない」といったことに繋がります。
必要な活動ができないことによって、発達に影響が出る、或いは眠いからイライラして行動上の問題が出てくるということは、よく経験します。

長時間のメディア視聴をしないようにするためには

「メディア視聴の時間を減らしなさい」と言われて、お母さん達も頑張って声かけをしていただいていて、「もうやめなさい!」ということをお子さんに何度も言ったりするわけですが・・・。

 お子さんはやっぱり「まだ観たい」「まだゲーム続けたい」と騒いだり、大声を上げてみたり、時にはすごくイライラして物を投げたり…までエスカレートしてしまうこともあると思います。

 お母さん達も、毎日それが繰り返されることで根負けしてしまい、ついメディアを見せてしまい、なかなか止められない、ということが結構あるかなと思います。

「メディア視聴をやめさせよう」と努力するよりも、メディア以外の楽しい遊び(体を使った遊びなど)の時間を、増やしていていただくことが良いのではないかと思います。

 例えば、小さいお子さんであれば、お家の中でも体を使った遊びが色々できます。
お馬さんごっこ、ぎったんばっこん、高い高い・・・など、ただ抱き上げてあげることでもいいと思います。
そういった親子でふれあう体を使った遊びは、お子さんも楽しめますし、言葉を育むことにも繋がっていきます。
天気が良い日であれば、外に連れ出していただくのも良いと思います。

 家の中にいると頭のどこかでメディアのことを考えてしまいがちですが、外に出て、自然に触れ合って、土に親しむような遊びを親子で夢中になってしていると、メディアを忘れて、楽しんで過ごせるのではないかと思います。

 家族で過ごす時間を、休日にたくさん作っていただき、メディア視聴以外の楽しい遊びをたくさんしていただくと、小さいお子さんであれば「こっちの方が楽しい!」と純粋に思うようになってきます。お家の中で過ごすことが真冬の季節には多いと思います。家の中では、絵本の読み聞かせも良いかもしれません。

 目安として、メディアを全く見ない状態で2~3日頑張っていただくと、その後は、お子さん達も「ゲームしたい、スマホ見たい」と言わなくなってきます。

 三連休を利用していただいて、いっぱい外で遊んで、家族で楽しい時間を過ごしていただくことで、自然にメディア視聴の時間も減らせることが多いです。

子どもがメディアを視聴する時間の目安は

 2歳以下のお子さんに関しては、やはり「言葉の発達」の問題もありますので、一切メディア視聴はしない、つまり「0時間」が推奨されています。

 それより大きいお子さんに関しては、すべてのメディアの視聴を合わせて「2時間以下にする」ことが推奨されています。できるだけ少ない方がもちろん良いと思いますし、内容としても親御さんがきちんと選んでいただく必要があると思います。

両親が子どものメディア視聴で気を付けるべきこと

 お子さんの前で親御さんが、スマートフォンでゲームをしていれば、お子さんは当然「面白そうだな」「自分もやってみたいな」と思うわけです。
また、お子さんは自分が泣いていても、お父さんやお母さんがあまり反応してくれないのに、スマートフォンが鳴ったらすぐに反応するような様子を良く見ています。
お孫さんが喜ぶからと言って DVD を買い与えてしまう、おじいちゃんおばあちゃん達もいるでしょう。

 おそらくメディア視聴は、お子さんだけ、お母さんだけで考えていく問題ではなく、ご家族全体で考えていくことではないかと思います。

 お子さんに何か気になる症状が出てきた場合には、「メディアの時間が長くなっていないかな?」というところに是非気を配っていただいて、今回ご紹介したようなところを見直していただくと、そこから解決の糸口が見つかってくるのではないかなと思います。

 こういったメディアのことに関して、動画配信でお伝えすることは、躊躇することでもありました。

 ただ今、ごく普通のご家庭で、ごく普通の発達に何の問題もないお子さん達に、長時間のメディア視聴によると思われる症状が出てしまうことをかなり多く目にするようになってきています。またコロナ禍で、メディア視聴の問題が深刻化することを非常に恐れているため、どうしても知っていただきたいと思いまして、今回お話しいたしました。

「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」

 来たる2021年3月11日で東日本大震災から10年を迎えます。
そこで減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に、「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施いたします。

 このキャンペーンは、東北大学病院、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、仙台市医師会、仙台放送の共同事業として、2020年12月より宮城県内で各種プログラムを展開いたします。

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執筆者
東北大学病院 小児科
植松 有里佳 先生
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