先生の声
子どものお口の健康 ~お口の発達編~

東北大学 山田先生インタビュー

東日本大震災から10年。
子どものお口の健康に関する変化について、東北大学病院 小児歯科 科長 山田 亜矢 先生にインタビューしました。


取材日:2021年1月8日
※ウイルス感染予防に配慮して取材しております。

下記にインタビューの内容をテキスト化しております。
動画が見難い場合は、下記のテキスト版でご覧ください。

虫歯以外で子どものお口の健康で気をつけたい事は

 最近、お口の機能に問題がある子供が増えています。
 例えば「物を食べる時間が長くかかる」と感じている親御さんも多いかと思います。この食べる時間がかかるお子さんは、他にも「よく噛まない・早食い・柔らかいものを好んで食べる・ペチャペチャ音を立てながら食べる・お口がポカンと開いている…」などといった問題を抱えていることが多いです。

 このような「食べること」に関する問題が起きる原因の一つとして「口腔機能発達不全症」があります。
 つまり、お口の周りや舌を動かす筋肉が十分に発達していないため、食べる機能が上手く発揮できていない状態です。

 乳幼児期に離乳を進めていく中で、「食べる・飲み込む」といった機能を獲得できなかった。歯が生えるのが遅かった、また虫歯や外傷で歯を早くに失ってしまった。指しゃぶり、口での呼吸、舌の位置が良くないなどの問題が誘因になることもあります。
 また、お口の周りの筋肉や舌の筋肉は、手足や体の筋肉と同じように動かさないと発達ができないだけではなく、機能が低下してしまいます。柔らかいものばかり食べている、よく噛まないでいると、さらに筋力は低下していきます。

 口腔機能発達不全症のお子さん達は、口の外と内側の力のバランスが悪いため、歯並びや噛み合わせの問題を引き起こすことがあります。また食事中の窒息事故に関連する誤嚥(ごえん)とも関係が深いです。
 今のお子さん達は口を使った遊びや会話が減っています。スマートフォンやゲーム機で遊んでいると姿勢も悪くなります。姿勢が悪くなると身体だけでなく、お口の機能にも影響してきます。

口腔機能発達不全症を予防するためには

 お口の機能の発達には「適切な時期に、それぞれの機能を獲得すること」が大切です。
 まず離乳の時期に注意が必要です。離乳食は生後何ヶ月といった月齢ではなく、お口の状態、特に歯やお口の機能などを参考にして進めると良いです。
 また「歯固め」と言って歯が生える前の時期、乳児はおもちゃや物をかじったり、舐めたりする行動も

・口に物が入ることに慣れる
・口で物をくわえながら鼻で呼吸する
・唇で咥えたり舌の機能を発達させる
・唾液を多く出して、それを飲み込むことによって「飲み込む機能」を発達させる
これらの機能発達に繋がっていきます。

 またチュパチュパすることで、口の周りの筋肉や表情筋を鍛えます。よく噛んで食べることも口腔の機能を高めます。さらに噛む刺激によって脳神経が活性化され、唾液が分泌し、口臭や虫歯歯肉炎の予防、肥満の防止にも繋がります。
 歯並びや噛み合わせは遺伝による影響もありますが、このような生活習慣や日常の癖、虫歯や口腔機能発達不全症が影響しています。

 幼児期には口や顔を使ったような遊びも大切です。昔の子供達がやっていた「にらめっこ」や歌を歌いながらの手遊び、全身を使った遊びも、お子さん達の体の発達やお口の機能の発達には重要です。
 また口がポカンと開いているお子さんは姿勢が悪いことが多いです。姿勢も口腔の機能の発達には大切です。特に食事の時には足が床につくように安定した形で食べられるように工夫してあげてください。食事の際に「食べ物を飲み物で流し込む」習慣も注意が必要です。

 指しゃぶり・おしゃぶりは、乳児の口腔機能の発達や精神的な安定に重要であり、2歳頃には自然に消失すると言われています。ただし、これらが長期間続いていると、歯並びや噛み合わせ、口腔機能に悪い影響を及ぼしますので、3歳ぐらいまでには止めるようにしたいものです。

 歯磨きの際にもトレーニングが出来ます。
 うがいの時、唇をしっかり閉じて、口や唇や頬をしっかり膨らませて「ブクブクうがい」をすることで、お口の周りの筋肉を鍛えることができます。

口腔機能発達不全症とかかりつけ医

もし、既にお話したような

・食事に関する問題
・歯並び、噛み合わせの問題
・口をポカンと開けている
・舌が白く汚れている
・喋り方や発音が気になる

このようなことがあれば、一度歯科医院を受診してみてください。気づいていないだけで、お口の機能や歯の形成不全、歯の生え方、虫歯などの問題を抱えていることもあります。
 お口を診ることで全身の病気が発見されることもあります。
 お子さんの病気や発達の問題は、予防と早期発見が大切です。お子さんに多い歯のケガは、かかりつけの歯科医院であれば、怖がらずに治療を受けられる可能性がありますので、ぜひ「小児歯科のかかりつけ医」を持つようにしましょう。

最後に

 子供の虫歯予防や口腔機能の発達には、家庭の影響が強く出ます。そのため、家族みんなでお口の管理や生活習慣について考えることが大切です。
 子供の健康管理は生まれる前から始まっており、そこから次の世代へと受け継がれていきます。赤ちゃんから高齢者まで全身の健康に繋がる口腔管理を心がけてほしいと思います。

 私達、小児歯科医は虫歯の予防や治療だけでなく、歯の形成や生え方、歯や口に見られる異常や疾患、口腔の機能、歯並び噛み合わせ、生活習慣、全身の成長をチェックしながら、子供たちの健やかな成長をお口から支えていきたいと考えています 。

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執筆者
東北大学病院 小児歯科 科長
山田 亜矢 先生
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