先生の声
親子で学ぶ、災害時の感染症対策

東北大学 児玉先生インタビュー

東日本大震災から10年。
これまでの歩みと、今後の課題について、東北大学病院 感染対策委員会 委員長、東北大学東北メディカル・メガバンク機構 災害感染症学分野 教授 児玉 栄一 先生にインタビューしました。


取材日:2021年1月8日
※ウイルス感染予防に配慮して取材しております。

下記にインタビューの内容をテキスト化しております。
動画が見難い場合は、下記のテキスト版でご覧ください。

東日本大震災から10年、この10年間を振り返って

 東日本大震災以降は、世界的にも「災害」が、かなり注目されるようになりました。
 政府や民間など、国や地域によっても変わりますが、災害への対応が以前とは違っており、自然災害に対しても早く復興・復旧しようという動きが非常に加速した10年だったと感じています。
 東日本大震災は、世界中にかなり大きなインパクトになり、民間や政府による支援以外にも、「自らが準備をする(自助)」という概念がかなり広がったと感じられます。

 ひとつは、昔から日本には避難所があったわけですが、この避難所に対する概念・認識がかなり変わってきました。
 「(避難)訓練」ですけれども、真面目にやるようになったというか、皆さんが本当に真剣に取り組むようになったと感じています。
 避難所に何が準備されていて、実際に災害が起こった際に、どのようなことをやればいいのかということを想定するようになってくれたと感じています。

 これは、民間企業が、例えばバッグに入った救急用具やマスク等をセットで売り出す工夫もありますが、そういったものに対して、皆さんが注目してくれるようになって、その結果、一家に一個は防災セットがあるようになっていると思います。

 そういう意味では、日本は非常に「災害に強い国」になったのではないかと感じております。

災害時の感染症対策 避難所での注意事項は

 今は、インターネットやテレビ等、「災害時の感染症対策」について報道されています。その情報が、かなり正しい情報になっていますので、そういった情報を見ていただくことが大切だと思います。
 感染症には、まず「マスクをすること」と「手洗いをすること」が大きな防御方法になります。

 「密を避ける」ということが今言われておりますが、人との距離を空けることを実践されると宜しいと思います。
 およそ1m以上の間隔を空けていただきたいと思っています。出来れば2 mの間隔を取れれば、なお、良いでしょう。

 距離に関しては、自分の手(腕)を伸ばした時の距離がおよそ1 m の半径になります。お互いに手(腕)を伸ばした形でぶつからない間隔が、およそ2 m になります。これを目安にして距離をとっていただければと思います。

 このような本当に基本的な事をきちんとやっていくこと、私がずっと言っている「当たり前(A)のことを、馬鹿(B)にせず、ちゃんと(C)やる」、略して「感染症の ABC」 をやっていただくのが、まず基本になると思います。

災害時の感染症対策 予防接種の重要性は

 特にインフルエンザに関しては、一般の方にも「予防接種の意義」がよく分かってきたこともあり、受けてくれるようになったというイメージがあります。
 インフルエンザのワクチンについては、今まで「ワクチンを打ったにも関わらず感染してしまった」という話をよく聞きますが、そういった経験でワクチンが効かないのではないかということが、実感としてあるかもしれません。

 しかし、実際に、インフルエンザワクチンを打っていると「重症化」はかなり抑制されることが分かっています。東日本大震災の2年前の2009年に起こった、新型インフルエンザの時も、ワクチンを打った方々は、ほとんど死亡者・重傷者が出ていないことも分かってきました。そういうワクチンの効果が最近では一般の皆さんに周知されるようになったと感じています 。

災害時の感染症対策 準備しておくべき物は

 災害時の日常生活で必要な物としてあります。もちろん貴重品やお金もあると思いますが、感染対策で考えますと、マスクです。マスクは人数分、最低でも3日分程度は用意して欲しいなと思います。あとは、アルコール消毒薬も持つと良いでしょう。

 災害時で水がない場合には、(手洗いの)代わりには、実際にはアルコール消毒を行うしかなくなります。そのため、出来れば災害時に持ち出すようなバッグの中に、アルコール消毒薬を常備していただくと良いと思います。
 アルコール消毒薬がない場合も、石鹸やハンドソープを持ち歩いていただけると役に立つだろうと思います。

 また意外と災害時に役立つのが「ラップ」です。これは、非常に役に立ちます。
(断水になれば)皿や茶碗を使う時も水洗いできなくなりますので、ラップで被っていただくと洗う必要がなくなるので、衛生状態が保たれます。
 さらに、避難された場所で隣の方と十分に距離が保てない時も、何か支柱になる物があれば、その間にラップを張ることで遮蔽することもできます。そういった意味では本当に万能に使えます。

 それ以外にも、怪我した時にもラップを巻くことで止血や、包帯の代わりにすることもできます。出血しているような場合は、ハンカチや手ぬぐいを怪我をしている場所にあてて、その上からラップを巻く形にすると応急処置になります。骨折や捻挫の場合も、添木のような何か固い物を添えてラップを巻いて固定することもできます。

 いろいろなことに使えますので、用意していただければと思っております。

災害時の感染症対策 子どもが注意すべきことは

 基本的には、お子さんも、ご高齢の方も気をつけることは、「当たり前(A)のことを、馬鹿(B)にしないで、ちゃん(C)とやる」ことです。
 「手洗い・マスク・そして距離を離していただく」ことが感染症の基本になります。

 また、親御さんはお子さんとともに「本当に災害が起こった時に、どうやって動いたらいいんだろう、どんなことに気をつけたら良いんだろう」と想定しながら災害訓練に参加いただきたいと思います。
 こういったことを「親から子に繋げていく」ことが、今後も非常に大事なことになると思います。

感染症対策で大切なことは

 コロナ禍ということで、コロナ対策を皆さんしっかりやっていただいていると思います。本当に毎日マスクしていただいて、手洗いをきちんとやっていただく、そして距離を離していただいています。
 実は去年の2月に新型コロナウイルスが日本に入ってきてから、インフルエンザや感染性胃腸炎等の感染人数も、すべて下がっています。

 手足口病に関しては、通常、夏場に大きなピークを迎えますが、ほとんど今年は感染者が出てない程度まで抑え込めています。
 ですから感染症対策は、本当に「手洗い・マスク・距離を保つ」ということを、きちんとやっていただくだけで、新型コロナウイルスだけでなく、インフルエンザやノロウイルスに代表される感染性胃腸炎、それ以外の感染症も軒並み全部(感染者数を)下げることができます。通常の年と比べますと、感染者数が1/5から1/10程度まで下がっています。

 感染症は、お子さん・ご高齢の方に関しては重症化しやすく、致死的になってしまうこともありますが、「手洗い・マスク・距離を保つ」を日常生活の中に取り込むことを、もうコロナ対策で今まで1年行ってきていることを、今後も続けていただくことが非常に大事だと思っています。

 何度も言っていますが、「感染症の ABC(当たり前の事を、馬鹿にしないで、ちゃんとやる)」。幼稚園からずっと「手洗いしましょう、マスクしましょう」と言われてきたことですね。これを馬鹿にしないで、きちんとやっていくことが大事だと思っております。

「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」

 来たる2021年3月11日で東日本大震災から10年を迎えます。
 そこで減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に、「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施いたします。

 このキャンペーンは、東北大学病院、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、仙台市医師会、仙台放送の共同事業として、2020年12月より宮城県内で各種プログラムを展開いたします。

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執筆者
東北大学病院 感染対策委員会 委員長
東北大学東北メディカル・メガバンク機構 災害感染症学分野 教授
児玉 栄一 先生
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