先生の声
子どもの発達と体を使った遊び

仙台市 北部/南部発達相談支援センター 久保田先生インタビュー

 東日本大震災から10年。
 子どもの言葉の発達と体を使った遊びについて、仙台市 北部/南部発達相談支援センター主幹 小児科医の久保田 由紀 先生にインタビューしました。


取材日:2021年2月9日
※ウイルス感染予防に配慮して取材しております。

下記にインタビューの内容をテキスト化しております。
動画が見難い場合は、下記のテキスト版でご覧ください。

子どもの言葉の発達に大切な事は

 よく周りのお子さんと比較して、ご自分のお子さんの言葉が遅いように感じるという相談を受けます。この場合、言葉だけを教えこもうとしてもうまくいきません。
 言葉の発達には土台になるものが必要です。その土台を形作るのは、整った生活リズムや身の回りの事を大人と一緒にこなす力、コミュニケーションをと取ろうとする気持ちなどです。

 まずは、生活のリズムを整える事、さらに毎日の生活の中で着替えや食事、トイレなど身の回りの事を大人に手伝ってもらいながら、一つ一つこなす経験を積み重ねていく事が大切です。

 インターネットの利用やテレビ・ビデオを見る時間が長くなると言葉の発達は遅れることが分かっています。「なかなか言葉が出ません」という不安を抱える方の中には、お子さんがメディアを長時間使い過ぎている方が一定の割合でいらっしゃるのですが、その割合はとても高くなってきている印象があります。
 少なくとも2歳までは利用を控えて、人と関わって遊ぶと楽しいという経験を、実際の体験を通して教えてあげてほしいと思います。
 具体的には「体を使った遊び」をお勧めします。

体を使った遊びの効果は

 小学校に入る前までの時期に、様々な遊びを通して、体を動かす機会を多く持つことには良い面がたくさんあります。

 まずは「体力がつく」ことです。
 体力は意欲や気力など気持ちの面の充実にも深く関わっています。生きていくために、とても重要な役割を果たします。

 次に「運動の能力が高まる」ことです。
 幼児期は、タイミングよく動く、力の加減をコントロールする等の「運動の調整をする能力」が飛躍的に高まる時期です。この能力は、小学生以降の運動の基礎になります。
 また、遊びの中でうまくいった経験を重ねることで、意欲や有能感が高まり、「何事にも積極的・意欲的に取り組むことの出来る力」が育ちます。

 成長するにつれて、子どもは多くの友達と一緒に遊ぶことが出来るようになります。友達との遊びの中では、「ルールを守る」「自分のしたいことを少しは我慢する」「話し合いをする」ということが必要になるため、「社会性を身に付ける」ことにつながります。その時の状況に合わせて、ルールを工夫したり、新しい遊びを作り出すことは「創造力」も育みます。

 そして運動する時には、周りの状況を瞬時に判断する、予測することが必要となり、脳の多くの領域が関わります。習慣的に運動することは、子供の学力につながる「知的機能の発達」を促します。


 このように、遊びを通して体を動かすことには良い面がたくさんありますが、言葉が出始める頃までの小さな時期に体を使った遊びをする一番の意義は、お父さんやお母さんと一緒に楽しい時間を共有できる事こと、言葉が出る前のコミュニケーションの機会を多く持てることです。

 自分のしたいことや、やって欲しいことを、身振り・指さし・表情などで表現して、自分の思いを汲んでもらったり、たくさんの声を掛けてもらったりという、やり取りの積み重ねで自然と言葉は育っていきます。

体を使った遊びの例

 特別な場所に行ったり、特別な遊びをしたりする必要はありません。
 まずは、お父さんとお母さんとお子さんの一対一で1日数分からでも良いので、体を使って遊ぶことをお勧めしたいと思います。

 赤ちゃんであれば「いないいないばぁ」や「くすぐり遊び」「高い高い」、もう少し大きくなったら、お父さん・お母さんがお馬さんになって、お子さんを背中に乗せて歩く、「肩車」や「おしくらまんじゅう」「でんぐり返し」など、お家の中でも出来る遊びはたくさんあります。
 お手伝いをしてもらったり、公園で追いかけっこ、鉄棒にぶら下がる、一緒に散歩に出かけて舗装された道路だけではなく、坂道やあぜ道、雪道などを歩いてみる事も、お子さんにとっては良い経験になるかと思います。

 お子さんご自身とご家族が楽しく取り組める遊びであるということが一番大切だと思います。

子どもが体を使った遊びをやりたがらない場合は

 まずは「生活のリズムを見直してみる」必要があります。
 早寝早起きはできているでしょうか?

 睡眠が足りていない状況では、体を動かす意欲がわきません。充分な睡眠時間を確保するためには、小学校入学前の子であれば「午後8時」、小学生は遅くとも「午後9時半」には寝ている必要があります。

 夜寝る時間が遅い子は、パソコンやタブレット、テレビ、スマホなどの利用時間が長い傾向にあります。これらの画面から出る光は、目を覚ましてしまいますので、夜の使用は避けましょう。使うタイミングや時間については、ご家族皆さんで話し合ってルールを決めると良いと思います。

 今までの遊びが、ゲームやインターネット中心だったお子さんは、体を動かして遊ぶ楽しさを、まだ知らないのかもしれません。お父さんやお母さんが、お子さんと一緒に遊ぶ時間を作って、体を動かして遊ぶと楽しいし、気分もすっきりして気持ち良いという事を経験させてあげてほしいと思います。

最後に

 「言葉でのコミュニケーション」の土台作りは、生まれて間もなくから始まります。
 泣いた時に抱っこしてもらった、声を出した時にお父さんやお母さんが声を返してくれた、そのようなやり取りの一つ一つがコミュニケーションの基礎になります。

 心も体も大きく成長する、この貴重な時期に親子で触れ合う時間を大切にして、体を使った遊びも楽しみつつ、言葉を育んであげてほしいと思います。

「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」

 来たる2021年3月11日で東日本大震災から10年を迎えます。
 そこで減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に、「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施いたします。

 このキャンペーンは、東北大学病院、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、仙台市医師会、仙台放送の共同事業として、2020年12月より宮城県内で各種プログラムを展開いたします。

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執筆者
仙台市 北部/南部発達相談支援センター主幹 小児科医
久保田 由紀 先生
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