先生の声
「親子で学ぶ、ヘルスケア」インタビュー 呉 繁夫先生

東北大学 呉繁夫先生インタビュー

東日本大震災から10年。
これまでの歩みと、今後の課題について、東北大学病院小児科 科長、東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 副機構長 呉繁夫 先生にインタビューしました。


取材日:2020年11月6日
※ウイルス感染予防に配慮して取材しております。

下記にインタビューの内容をテキスト化しております。
動画が見難い場合は、下記のテキスト版でご覧ください。

①震災から10年 これまでの歩みと、課題

 震災後の10年、お子さんの健康状態の調査を実はやっていました。

 まず増えたのが「肥満」。アトピー性皮膚炎などの「アレルギー疾患」。それから問題になったのが、「子供の心の問題」です。この三つが震災後にとても問題になっていて、一つ目の肥満は、だいたい1年か2年ぐらいで元へ戻っています。

 ところが「アトピー性皮膚炎」は、特に沿岸部、津波の被害があった所が多いのですけれども、今も病気の数が増えたまま、つまり元に戻っていないという状態が続いています。お子さんの心の状態はとても複雑で、形を変えて出てくるのですね。

 つまり震災の時に小さかったお子さんが今小学校とか中学校に行っていますよね。そうすると、例えば学校の成績が不振、或いは学校で少し友達とうまくいかない、極端な場合は不登校になる、そんな風に子供は心の問題が「形を変えて長続きする」ということが分かっています。
 やはり、これらの状態は、この10年で完全に震災の前に戻ってはいないのだろうなという風に感じています。

②自然災害と子どもの健康の関連性は

 宮城県の子供の健康を考えると、先ほどの問題とも少し被りますけれど、「肥満・不登校・虫歯」は、全国の都道府県の中でトップです。震災前も実はこの指標とあまり良くなかったのですけれども、震災後あまり改善の兆しがないのですね。

 自然災害のコロナで、やはり「コロナ太り」という形で、災害は違っても災害の後には同じような健康被害が出ます。こういう問題を子供が持っているという事を認識して、それに対して「どうやって対処するか」という事を真剣に考えなくてはいけない時期が、もう来ているんだなと思っています。

③子どもの健康問題への対策は

 今お話しした「肥満・アレルギー性疾患・不登校・虫歯」という問題は、実は子供の生活の習慣に根ざしている病気なのですね。

 例えば虫歯であれば「甘い清涼飲料水」や「歯磨きの習慣」に依存していますし、肥満の場合だと「食事の内容」と「運動の習慣」に根差します。

 つまり今宮城県の抱えている子供の健康の問題を考える時に「お子さんの生活習慣」を考えずに、この問題を解決することができないんですね。

 やはりお母さんや学校の先生、地域の方々と一緒に、お子さんがどういう風な生活をしているのかという事に、もう少し気を止めていただいて「健康になるような生活」を是非進めていただければと思っています。

 そのために今回「親子で学ぶヘルスケア」というプログラムに参加させていただきました。

④子どもの発達について知っておきたい事は

 まず子どもの発達の「健やかな発達」があって「発達障害」がある。これは皆さんご存知だと思うのですが、健やかな発達でないお子さんは発達障害、発達障害でないお子さんは健やかな発達ではないのですね。

 この真ん中に「グレーゾーン」があるんです。

 実際、不安を抱えて支援センターなどに相談を持ちかける親御さんの中には、グレーゾーンの方が凄く多い。この数が恐らく凄く増えているのだと思います。
 このグレーゾーンの方の特徴は、「生活の仕方」或いは「どこにいるか」ということによって症状が大きく変わることです。
 学校だと凄く問題が多い。だけれども家だと全くそういう様子がない。

 例えば、学校だと一言も喋らないお子さんが家だと普通に喋る。そういう事が起こります。逆に、家だと凄く親に手をあげる、すぐ癇癪を起こすとかいう方が、集団生活しているとあまり目立たないというケースもあります。

 ということは、そのお子さんがどういう生活をされているかによって、「グレーゾーン」のお子さん達は、症状が良くなったり悪くなったりするんですね。今、増えているこのグレーゾーンのお子さんに「正しい生活を身につけていただきたい」と先程お話ししたのは、体が肥満になる、そういう事だけではなくて、「行動が改善する」ということの期待感が、このグレーゾーンのお子さんには凄く多いですね。

 それで、このような形で口酸っぱく話をするキッカケになっています。

 実際、相談される方のパターンって大きく分けて二つあります。

 親御さんが心配されて支援センターに相談に来られるパターン、学校の先生や幼稚園の先生など「親でない人たち/家族でない人たち」が気づいて相談に来られるパターンがあります。

 お子さんが「コミュニケーションがうまく取れない」とお母さんが相談に来られる方の場合、実際に医師が面談してみると、全然そんなことはないというような方もいらっしゃいます。
 親には凄く反抗的だけれども、外に行くとそういう症状が見えないって方もいらっしゃる。
 実際、学校の先生や幼稚園の先生が見ると、「他の子と違っている、おかしい」と考えられる方も、親御さんは全然その意識がない方もいらっしゃいます。

 ただ、その子どもが「おかしい」と思っている方から見ると、みんな発達障害に見えるわけですよ。だから、その方の見立ては病気であるということになってしまいますが、実際には発達障害の場合だと、これはあまり場面には関係なく症状が出てしまいます。

 だから「ある人にとってだけ病気に見える」という場合は、あまり発達障害の症状としては強くないのかもしれないですね。

⑤子どもの健康のために気をつけたいことは

 非常に耳の痛い話かもしれないですが、お子さんの生活が昔から良い生活と言われているパターンになっているのかどうかは一回見直していただきたいなと思います。

 それは「早寝早起き、朝ごはん」や、「インターネットやテレビの視聴時間」が多い子だと1日4時間以上や休みの日は1日中とか言う方がいらっしゃいますよね。そういう風になっていないか。ちゃんと歯磨きをしているか。

 もう一つ、ちゃんとお家のお手伝いをしているかなど、昔から言われている「しつけ」という部分が出来ているかどうかが、とても重要だと思います。

 そこが第一歩で見直していただく事。それは医者でなくても、どなたでも解ることではないかなと思い、この動画が、見直すキッカケになってくれれば一番いいなと思っています。

⑥子どもの生活習慣について親が学ぶタイミングは

 これは、早ければ早い方が良いですね。お母さんに限ったことではないと思います。
 みんな知って欲しい事です。昔は恐らく、おじいちゃん・おばあちゃんが、そういう知恵を授けてくれたのだと思います。ところが、今それが難しい世の中になってしまっていて、いつ学ぶかがとっても難しいですけども、親御さんの関心ということから考えると、やはり妊娠がわかった時、きっとお子さんに対する関心ぐっと高まりますよね。
 それ以外の場合だと、恐らく向こう岸のことで、自分の問題としては捉えづらいですよね。

 普通の人にとって、お子さんの教育というのは自分がお子さんを持つまでは強く意識しないですよね。ですから妊娠が解って、お子さんが出来たという時が一番いいんじゃないかなと思っています。

 例えば、妊婦さんが検診に来た時、或いは安定期に入って少し仕事も楽になった時、産休に入った時に意識していただければいいなと思います。
 逆に生まれてからだとお母さんは、めちゃくちゃ忙しいんですね。中々、こういった事を考える時間が乏しくなるのではないかなと思います。

 出産後は親として子供に対する関心が物凄く高まると思いますが、実際に子育てしなきゃいけないので、じっくり考える時間がなくなっちゃうんですね。ですから生まれる前の時期、「しつけ」と言ったら厳しい言い方ですが、「どんな風に子どもが生活すればいいのかな」ということを考えて貰うには、妊娠が分かってからがいいのではないかと思います。
 でも、遅すぎることもないです。気が付いた時に考えていただくという事が、とても大事ですが、早ければ早い方がいいと思います。

⑦子どもの発達と健康に 私たちが今できること

 普通の病気と違って「発達障害」は薬が一番大きな治療法ではないんですね。
 先程お話ししたみたいに、グレーゾーンの方がいらっしゃるわけですね。その方の一番の治療っていうのは、やはり「生活を規則正しいもの」にすることで、お子さんが見違えるように変わるんです。

 そう言うと、「信じられない、きっと薬飲ました方がいいだろう」という風に考えられる方もいるかもしれないですが、騙されたと思って一回やってみませんか。

 きっと、それによって得られることは凄く多くて、なかなかその根拠を示すことが難しいところですが、長い間、人間が蓄えてきた知恵、それは、おじいちゃん・おばあちゃんが教えてくれていることなんですね。それを信じてみる事は、結構良いことなのかなと思います。

 恐らく、そんなに突拍子もないこと言っていないと思います。

 「早く寝なさい」、「早く起きなさい」、「朝ごはん食べなさい」、「お手伝いしなさい」、「テレビを長く観ちゃダメですよ」、或いは「甘いものを食べ過ぎては良くないですよ」とか、本当に当たり前のことしか言っていません。それを守ってもらうことは、逆に結構難しいことなのかもしれないです。でも、それによってお子さんが良い生活習慣を身につけられれば「一生の財産」になるんですね。

 健康への近道はそこにあるので、お子さんの将来に向けての財産を身につけて貰う、という意味では、正しい生活習慣を身につける事は、とても素晴らしい事なんだと思います。

「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」

 来たる2021年3月11日で東日本大震災から10年を迎えます。
 そこで減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に、「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施いたします。

 このキャンペーンは、東北大学病院、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、仙台市医師会、仙台放送の共同事業として、2020年12月より宮城県内で各種プログラムを展開いたします。

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執筆者
東北大学病院小児科 科長
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 副機構長
呉繁夫 先生
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