先生の声
子育ては焦らず、急かさず、見守りも大切

東北大学 大塚先生インタビュー

 東日本大震災から10年。
 東北大学病院 精神科 大塚 達以先生に、精神科医師のお立場から子育てに関する相談の変化や親の子どもへの関わり方について伺いました。


取材日:2021年2月26日
※ウイルス感染予防に配慮して取材しております。

下記にインタビューの内容をテキスト化しております。
動画が見難い場合は、下記のテキスト版でご覧ください。

この10年で子育てに関する相談の変化は

 震災から10年経ちますが、震災直後は直接的な影響で精神的に不調となるお子さんもいました。直接的な行動の変化によって精神科を受診されていたことはあったと思います。ただ当時思っていたことは、お子さんが安全な場所や安心できることが重要だということでした。

 それから少し時間が経ち、直接的な影響は徐々に減っていったと思います。心のどこかには影響が残っている、あるいは何かのきっかけで影響が出てくることがあるかもしれませんが、表面的には震災の影響が目立たなくなってきた印象はあります。

 震災からしばらく経ってお生まれになったお子さんは直接的な影響がありません。ただ、ご両親は、恐らく震災当時まだ若かったでしょうから、子育ての中で震災の影響による「不安」がどこか心の中に残っている、また何かのきっかけで「不安」が表面に出てくるなど、心の変調を来たしやすい・心の余裕が持てないことが、子育てに何等か影響して、お子さんのメンタルヘルスに影響を与えるようになった、そのような感じはしています。
 やはり時期によって震災の影響は変わってきていると思っています。

 子育てに関する悩みは皆さん多いと思いますが、私が関わっているのは子どもたちなので「子どもの発達」に対する「心配」について今回はお話できたらと思っています。

 発達の悩みに関しては、身長や体重の身体的な発達もありますし、一方で精神面の発達、言葉も含めて社会性の発達と、様々な発達があります。多くの場合、小さい頃に健診を受けに行かれますが、その中で病気などの医学的な介入が必要な場合は、比較的小さい頃に健診を通して見つけてもらえると思います。
 私が今回お話したいことは、直接的にお子さんに対する医療的なケアではなくて、むしろ子育てをしている、お母さんやお父さんが感じている「焦り」や「悩み」をテーマにお話ししたいと思います。

親が子どもを「見守る」際に重要なポイントは

 まず、今日お伝えしたいことは、お母さん・お父さんにお子さんの発達を「あまり焦らずに見守ってください」ということです。

 私たちが病院や健診で診ていると、お母さんたちは、ご自分のお子さんの「成長スピード」について、とても気にされていることが多いと思います。ママ友同士で「うちの子、こんなことが出来るようになったよ」と聞くと、ついつい「うちの子はまだ出来ていないかも」や、逆に「うちの子も出来ているから安心だ」と思うようなことは、日常の中でよくあることかと思います。その場では「そうですね」とお母さんたちも笑っているかもしれませんが、心の中で凄く焦ってしまい、家に帰ってから「うちの子、大丈夫かしら」と不安になることもあると思います。
 最初は、旦那さんやご自身のご両親に相談すると思います。大概は、ご家族も「大丈夫だよ」と言ってくれるので、お母さんが安心してくれるのであれば良いと思いますが、今は様々な情報があり、情報の出どころがはっきりとしていないものもあります。インターネットの情報は、どれも同じくらいのレベルで信憑性があると思ってしまう方もいらっしゃいます。ネガティブな情報を見ると「やはりみんなは大丈夫と言っていたけれど、本当に大丈夫なのか‥」と情報に翻弄されてしまう部分があると思います。

 発達は、歩くといった「運動面の発達」や「言葉の発達」など、色々な面の発達があります。そのため、どうしても各面の発達が同じようなスピードで発達していくようにイメージしてしまうかもしれませんが、お子さんによって、この面の発達は少し早かったり、こちらの面の発達は成長スピードが早くなかったりという感じになります。後々に振り返れば、大体平均して同じようなスピードで発達していたという感じになりますが、ある一定の時点では各面の発達には成長スピードの差があります。あまり一つの発達面に着目しすぎないで見ていただけると、親御さんの焦りは減ってくるかなと思います。

 私たち精神科医師の場合は「運動面の発達」より「精神面の発達」を診ますが、特に人とのコミュニケーションを含めた「社会性の発達」などは、より成長スピードはバラバラです。そこには、お子さんの個性や性格が背景にあるので、成長を見守る際にも「この子は、どういう個性を持っているのかな」ということを、よく理解していなければならないと思います。
 その個性を見た上で、発達にも色々な発達の領域があり、そして「この部分は成長しているけれど、この部分の成長はまだゆっくりだな」と全体の成長度合いを俯瞰した目で見てもらえると焦りが少し減ってきていいのかなと思います。

 小さい頃はまだ個性が分からないので、親御さん自身の個性やご自身の経験則から、お子さんの個性を当てはめて考えると思います。最初は、そのような形で良いと思います。
 一方で、自分とは違う個性や性格になって欲しいと、お子さん本人の個性というよりも親御さん自身の願望に近い形で個性を見てしまうことは良くない方向に進んでしまいます。
 怖がりな性格や好奇心が旺盛など様々な個性があります。1歳頃は難しいですが、3歳頃から少し集団の中に入ることで、個性が見えてくると思います。是非、お母さんたちが「こうなって欲しい」と思うことは当然ですが、あまり前面に出さずに「こういう感じの子(個性の子)なんだ」と少し客観的に見てもらえると良いかと思います。

子どもの「精神面や社会性」の発達に親の関わり方は

 心理的な発達の段階は、階段状に変わっていくため、一概に年齢だけで区分できるものではないですが、少なくとも自分で色々なことが出来るようになって、親からちょっと離れて活動できるようになってくると、お子さんが色々なモノに興味や関心を向けてくる時期があると思います。
 最初は、怖いからお母さんと一緒にやっているかもしれないし、不安の少ない子は一人でお母さんから離れて興味あるものに向かっていくことがあると思います。
 子どもの発達の中で大事にして欲しいことは、お子さんがどういうものに関心を向けていたり、興味を持っているか、ということを見つけてあげて欲しいなということです。その子の個性があって、その子が向いていく興味・関心の方向があると思うので、大人たちは、その様子を客観的な目で捉えて欲しいと思っています。

 その子自身が興味関心を向いたことであれば「楽しむ」という感覚として物事に向き合えるので、それが成長につながってくと思いますので、やはり「子どもの興味事」を見つけてもらうことが大事だと思います。

 ついつい我々も親をやっていると習い事でも「あれもこれもやって欲しい」という感じで、徐々に親御さんの想いが強まってしまうのではないかと思います。子どもは変わらずに何歳になっても同じことに興味関心を持ち、個性も繋がっていきますが、親の意識は逆に、小さい頃は見守っていたのに少しずつ自分の望む方向に向けていく時があると思います。

 親御さんの想いを受け止めて、興味関心が無くてもそのことをやろうとするお子さんもいれば、親が言ったことはやらないというお子さんもいます。その時に、親御さんが子どもの個性や興味関心の方向に合わせていこうと考えてもらえると良いと思います。
 そうしないと親御さんが勧めたことに子どもが興味を向けてくれないことでイライラしてしまうこともあります。やはり、「こうなって欲しい」という思いがあることが「焦り」に繋がってきて、親子関係が上手くいかなくなることがあるのではないかと思います。個性を知ることや、今どんなことに興味関心を持っているのかを見て、そこに親御さんが合わせてもらいたいと思います。

 お父さん、お母さんが物事を提示してあげることや、何でもやらせてあげることは大事です。キッカケは作ってあげて、その後の反応を見て、ちょっと背中を押すのか、強引にやらせるのかで成長への影響は変わってくると思います。

 小さい時に何をしたら将来どのように成長するかは予測がつきにくいですが、精神科にいらっしゃったお子さんの話を聞いていると、小さい頃は手が掛からなかった、周りに合わせていたというお子さんが思春期を迎えて、葛藤が大きくなってしまい、精神的に変調を来たすケースもあります。
 そういったケースばかりではありませんが、やはり小さい頃に「自我」を大切にして、周りが本人のペースに合わせてあげることで、そういう葛藤が思春期に少なくて済むかと思います。

 親御さん自身の思いが強くなりすぎていないかと、お母さん・お父さんが自分の気持ちはどうかと考えることも必要だと思います。それは自分だけでは出来ないので、夫婦でお互いに指摘し合うことや、ご自身の親御さんや家族に「自分の想いを子供に押し付けすぎてないか」などを聞いてみることも良いと思います。
 仮に自分自身でそう思ったとしても、誰にも話をしないと、自分の中で「良くないことをしているんじゃないか」とネガティブな感情だけが心の中で燻ってしまうと思います。お母さんたちが悩みを抱えてしまうことが心配なので、周りの人に今の自分のスタンスを聞いてみると客観視が保てるのではないかと思います。

 お母さんにも個性があって「どうしても自分が何とかしたい」「自分だけが子どもを何とかできる」と思ってしまう方もいらっしゃるので、周りの方が勇気を持って指摘してあげて欲しいと思います。

 私は習い事や色々なことに対して、「三日坊主」でも、「経験するだけ」でも良いと考えていただきたいと思います。
 本人が興味を持って楽しんでいれば長く続けるだろうし、興味が持てなければ行きたくないと言うと思います。小さい時にちょっとでも経験していたことが、少し大きくなってから再度やってみようかなと思う取っ掛かりになる可能性はあると思います。そのため、長くやることにこだわらない方が良いと思います。
 本人がいかに関心を持っていることなのかに繋がってくると思いますので、短い期間でも経験していれば、いずれまたやりたいなと思う取っ掛かりになれば良いかなぐらいに考えていただくと良いと思います。

最後に

 親御さんは、お子さんに色々な期待をしていると思います。それは当然だと思いますし、「うちの子ならできんじゃないか」と、ちょっと親バカチックに思っていただくことはあって欲しいと思いますし、とても大事なことです。「この子には、これが合っているのではないか」と色々な刺激を与えてみる、また反応を見るといったトライはしていただきたいと思います。
 親の想いは大事ですが、それが子どもに対して過度になっていないか、また、子どもの個性や興味関心の領域にフィットしていない、あるいはタイミングとして合っていない時があるかもしれません。
 それらを、一歩引いて見る自分と、親バカになる自分のバランスを保つことを意識していただきたいと思います。また、その状態を周りの人に聞くことで、自分のメンタルヘルスを保って貰えると良いと思います。それによって、子育てに対する焦りや不安は少しずつ軽減していって、子育てを楽しんで貰えるのではないかと思います。

「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」

 2021年3月11日で東日本大震災から10年を迎えました。
 そこで減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に、「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施いたします。

 このキャンペーンは、東北大学病院、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、仙台市医師会、仙台放送の共同事業として、2020年12月より宮城県内で各種プログラムを展開いたします。

おすすめ関連記事

「親子で学ぶ、ヘルスケア」インタビュー 呉 繁夫先生
記事はコチラから

「親子で学ぶ、ヘルスケア」インタビュー 安藤健二郎先生
記事はコチラから

「親子で学ぶ、災害時の感染症対策」 児玉栄一先生
記事はコチラから

「子どものお口の健康 ~虫歯編~」山田 亜矢 先生
記事はコチラから

「子どものお口の健康 ~お口の発達編~」山田 亜矢 先生
記事はコチラから

「子どもの発達と絵本の読み聞かせ」土谷 真央 公認心理師
記事はコチラから

「子どもの発達とお手伝い」土谷 真央 公認心理師
記事はコチラから

「子どもの肥満 ~なぜ悪い? どうすれば?~」 菅野 潤子先生、三浦 啓暢先生、鈴木 智尚先生
記事はコチラから

「子どもの肥満を予防する食育」菅野 潤子先生、三浦 啓暢先生、鈴木 智尚先生
記事はコチラから

「生まれてからの1年間にパパ、ママにやってほしいこと」植松 有里佳 先生
記事はコチラから

「子どもの発達とメディア視聴」植松 有里佳 先生
記事はコチラから

「うちの子 発達大丈夫かなと思ったら」奈良 千恵子 先生
記事はコチラから

「上手に褒めて育てるためのポイント」奈良 千恵子 先生
記事はコチラから

「三世代コホート調査から分かった震災による影響や生活習慣の変化」小原 拓 先生
記事はコチラから

「子どもの発達と眠り」久保田 由紀 先生
記事はコチラから

「子どもの発達と体を使った遊び」久保田 由紀 先生
記事はコチラから

「子どもの発達と、耳の健康」綿谷 秀弥 先生
記事はコチラから

「子どもの視力とメディア視聴」野呂 充 先生
記事はコチラから

「子どもの眼の病気とメディア視聴」藤岡 俊亮 先生
記事はコチラから

「母親の不安解消と「かかりつけ医」の役割」川村 和久 先生
記事はコチラから

「防ごう!『子どもロコモ』」佐々木 祐肇 先生
記事はコチラから
執筆者
東北大学病院 精神科
大塚 達以 先生
医療施設情報