先生の声
三世代コホート調査から分かった震災による影響や生活習慣の変化

東北大学 小原先生インタビュー

 東日本大震災から10年。震災を機に設立された東北大学 東北メディカル・メガバンク機構の小原先生に「三世代コホート調査」を通じて分かってきている「震災による影響や生活習慣の変化」について伺いました。
 「三世代コホート調査」の概要も教えていただきました。

取材日:2021年1月29日
※ウイルス感染予防に配慮して取材しております。

下記にインタビューの内容をテキスト化しております。
動画が見難い場合は、下記のテキスト版でご覧ください。

東日本大震災から10年 生活習慣の変化は

 2011年に東北大学東北メディカル・メガバンク機構が立ち上がって、2013年から妊婦さんを中心とする三世代コホート調査を始めました。「コホート」というのは「ある一定の集団を、長期間追跡していく」という研究の方法になります。

 まず妊婦さんに参加していただいて、その後お腹の中の赤ちゃんや旦那さん/パートナー、そして赤ちゃんにとってのおじいちゃん・おばあちゃん、三世代の方々に参加していただく「三世代コホート調査」を実施しています。

 胎児期からの環境要因が将来の疾患発症に関係していると言われているため、お母さんのお腹の中にいた時からの環境を把握した上で、そのお子さんの将来の健康について調査をしていこうという事が調査の目的です。

 震災後に始まった調査のため、震災の影響かどうかは明確には分かりません。ただ調査の中で、ご自宅の被害が大きかった妊婦さんや旦那さん/パートナーにおいては「喫煙率が高い」また「 BMI が高い(=肥満の割合が高い)」傾向があるという結果が見えてきています。
 やはり震災による避難や仮設住宅での生活がストレスとなっている可能性はあるので、間接的に、そのような生活習慣の変化に繋がっているのかなという事は見えてきています。

参考: コホート調査(長期健康調査)について
三世代コホート調査から分かってきた研究結果(喫煙率・肥満など)

三世代コホートにより明らかになってきている事は

 (震災による)明らかな影響かどうかは分かっていないですが、お母さんの妊娠中の高血圧が将来のお子さんの神経発達に一部影響しているかもしれないという結果が見えてきています。
 参加してくださったお子さんがだんだん大きくなって来ているので、お子さん達の神経発達はしっかりみていこうという事で計画を立てています。

 喫煙が妊娠高血圧、そして妊娠高血圧がお子さんの神経発達に関連しているかもしれないという話をしましたが、「影響するお子さん」と「影響しないお子さん」が恐らくいると思います。「感受性」の違いと考えられますが、両親がしっかりとお子さんの様子を見てあげる事が大事だと思っています。
 影響の出方は、お子さんによってかなり違います。不安で塞ぎ込む子、不安で騒ぐ子など。また神経発達においては、お子さんの段階では男女差があると言われています。

 そのため、それぞれお子さんの感受性を把握するには、親御さんが会話の時間を作って理解してあげるという事も必要ですが、生物学的/遺伝学的に規定されているところも少なからずあると思います。
 今後、当機構で行っているゲノム解析など生体試料を使った解析により、生物学的に特徴付けていく事は(お子さんの特性を把握する)ひとつのファクターとして有用だと思っています。

 ひとつすごくイメージし易い事としては「食事」に大きく地域性が出ている事は想像がつくと思います。研究としては「食事が、どういう風にお子さんの健康・発達・発育に影響するか」を追跡調査してみようと思っています。その際に「地域差」はかなり考慮しないといけないと思っています。地域の違いによるお子さんの健康への影響で、食事というのは大きいのかもしれないなと思います。

 さらに、宮城県内の中でも「喫煙率」が地域によって違う事は分かってきています。
 地域の方々の喫煙に対する考え方、例えば「みんな吸っているから仕方ないね」という地域と「喫煙なんて!」という地域があるように、地域差が大きいなと思います。そういった喫煙に関する地域差も、お子さんの発達・発育に恐らくかなり影響しているのではないかと思っています。

参考:三世代コホート調査から分かってきた研究結果(妊娠高血圧など)

コホート調査が目指している事は

 解析結果を自治体の皆さん、保健師さんや関係部署に情報共有して、例えば乳幼児健診で活用していただける資財を作ったり情報のフィードバックを行ったりしています。
 また地域によって健康課題は異なるため、その健康課題に応じた解析を行い、自治体の皆さんに情報をフィードバックして、行政の施策に落とし込む事を一つの目標にしています。

 医療にも情報をフィードバックしていく事で、「疾患へのなりやすさ」を予測するモデルを、今三世代コホート室の中で解析をしています。
 例えば「SGA」という、母親のお腹の中にいた期間に対して、出生児の体格が小さめである状態を予測可能とするようなモデルの構築に取り組んでいます。
 また「HDP」という妊娠高血圧症候群の一つのタイプに対して、妊娠初期の妊婦検診で見つけるにはどうしたら良いかというモデルを作って論文作成・投稿しています。
 それらを産科医療機関で活用してもらうために、例えばアプリを作るような事に今取り組んでいるところです。

 三世代コホート調査だけではなく、地域住民コホート調査の方でもかなり膨大な調査票を対象者の方にはご回答いただいています。その情報をしっかり活用して、さらに遺伝子などの生体試料に基づく解析によって分かる特徴を活用して、「個別化予防と医療」を実現したいという事が機構としても、私個人としても10年この事業に携わって、その必要性を感じたので、出来るだけ近い未来に現実的なところから実現していきたいなと思っています。

子どもの発達・発育に対して両親が気をつける事は

 やはり「禁煙」「体重を適正に保つ」事が妊娠前や妊娠中から出来る事だと思います。それは女性だけではなくて、周りの家族や旦那さん/パートナーも「禁煙する」「ワクチンの接種をしっかり行い感染予防する」など気を付けてほしいと思います。
 「プレコンセプションケア」という言葉で最近よく言われるのですが、妊娠前から女性だけでなく男性や家族も協力して、そういった環境を作る事が大事だと思います。
 私たちは解析や色々な検討を進めて行こうとは思っていますが、どうしても「情報」として処理できるものだけではない部分も、お子さんの発達・発育には、かなり影響していると思います。
 私も子どもが3人いる中ですごく実感していますが、子どもによって全く表現型が違うというか、「物事に対する反応の違い」があるので、子ども一人一人の事をちゃんと「見て、理解してあげる」。そのためには、ちゃんと時間を取って話をする、一緒に遊ぶ事は、大変な状況の方も多いと思いますが、考える・見直してみるという事も大事だなと実感しています。

「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」

 来たる2021年3月11日で東日本大震災から10年を迎えます。
 そこで減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に、「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施いたします。

このキャンペーンは、東北大学病院、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、仙台市医師会、仙台放送の共同事業として、2020年12月より宮城県内で各種プログラムを展開いたします。

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執筆者
東北大学病院 薬剤部 准教授
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 分子疫学分野 准教授
小原 拓 先生
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