先生の声
生まれてからの1年間にパパ、ママにやってほしいこと

東北大学 植松先生インタビュー

子どもの成長、発達について、東北大学病院 小児科の植松 有里佳 先生にインタビューしました。


取材日:2020年12月16日
※ウイルス感染予防に配慮して取材しております。

下記にインタビューの内容をテキスト化しております。
動画が見難い場合は、下記のテキスト版でご覧ください。

赤ちゃんはどんな風に育っていきますか

 赤ちゃんの運動発達は、まず首が座って、お座りができるようになり、立って歩くようになるというように、順番が決まっています。

 1歳くらいを目安に立って、その後歩き始めますが、ちょうどその頃に、お母さんのことを「ママ」と言ったり、お父さんを「パパ」と言ったりと意味のある言葉が出てきます。
 意味のある言葉が出てくるようになるまでには、生まれてから1年近くかかってくるわけですが、実は意味のある言葉が出る前にも、言葉の発達は始まっています。
「言葉の発達」には、0歳の赤ちゃんの時期の、お父さんやお母さんとの関わり方が、非常に重要です。

意味のある言葉が出る前の『言葉の発達』とは

 生まれてから首がすわるまでの時期は眠っている時間も長いですし、起きては泣いて、抱っこしてもらい、おっぱいを飲んだり、オムツを替えてもらって、また眠って…というのを繰り返す時期ですね。

 当然喋ることはできないわけなので、「泣く」ということが重要な意思表示になってくるわけです。
この時期、泣いたらお母さんが来てくれて、抱き上げてくれて、あやしてくれて、抱っこしてくれて、おっぱいをくれたりする…ということを繰り返すっていうことが非常に重要になります。

これが、お子さんのコミュニケーションの基礎になります。

 この繰り返しによって、お子さんは、お父さんお母さんから愛情を受けた経験を積むことになりますし、それは後々に、お子さんが他人へ愛情をかけることの基礎にもなってくるのです。

 生まれてすぐの時期は、”親から子供/子供から親”という双方向の「愛着の形成」にとって、一番重要な時期であり、言葉の発達は、その基礎の上に積み上がっていくことになリます。

 当たり前のことかもしれませんが、赤ちゃんが泣いた時に「オムツかな?おっぱいなの?暑いの?」と抱っこしながら、お子さんの様子を気にかけてあげて、お子さんのこと見ながら、話しかけて対応してあげるということが、とても大切で、この時期しかできない、とても大切なコミュニケーションです。

 ただ、その時期は「どんなに抱っこしても、ずっと泣いている」等で非常に悩まれるお母さん達が多いと思いますし、なにをやっても泣いてしまって、すごく大変という、その気持ちの方が強くなってしまう時期でもあります。
 お母さんも、産後で体調もまだ回復していない時期で、不安が強くなってしまうということもあるかもしれません。

 でも、不安になる、心配になるということは、お母さんがお子さんのことを心配して、上手に関わっていこうとしている証拠なのです。

 よくおっぱいを飲んで、少し泣かずにご機嫌の時間があるようであれば、お子さんの健康は大丈夫なことがほとんどですので、この「泣いたら抱っこする」時間がとても大事なんだということを心の中で想っていただければと思います。

赤ちゃんは、お母さんをいつから認識しているか

 生まれてから、5日~1週間もすると、赤ちゃんは、お母さんの声を聞き分けたり、或いはお母さんの母乳パットの臭いを認識すると言われています。視力に関して言うと、新生児の頃の焦点距離は30センチくらいです。

 お母さんがお子さんを抱っこして、おっぱいをあげるわけですが、お子さんがおっぱいを飲もうとして抱っこした位置から、お母さんの顔までの距離が大体30センチ程ですので、抱っこしたその状態は、赤ちゃんがお母さんを認識できて、コミュニケーションをとるのに良い位置に自然になっているわけです。

赤ちゃんとのコミュニケーションで気をつけるべきことは

 首が座って、お座りができる時期になってくると、例えばおもちゃを取っては投げたり、取って口に入れて舐めたり噛んだりする時期になってきます。

 この時期は、あまり赤ちゃんがお母さんたちに対して、直接関わってくることを感じられない時期でもあり、コミュニケーションが一見取れていないような感じがする時期ですが、赤ちゃんの側からすると、確実にお母さんのことを認識しています。

 一見コミュニケーションが取れてないように見えても、例えば、一瞬だけお母さんを見上げたり、「あ」と声を出しながらお母さんの方を見たりする様子などが見られるようになってきます。

 その時に、お母さんが「どうしたの?」「楽しいね」「綺麗だね」などの声掛けをして反応してあげるということがとても大切です。

 お母さんがお子さんに対して反応すると、お子さんはまた「声を出してみたい」と思うようになりますし、「お母さんが笑ってくれた」「お母さん、喜んでいる」ということは十分認識していますので、「またやろう」と思うようになります。
そういうことを繰り返すことで、赤ちゃんは「相手に対して何かを伝えたい」という気持ちを育てることができるわけですね。
 相手に対して伝えたいという気持ちを育てるということが、言葉が出る前の時期に非常に大事になってきます。 まだ、意味のある言葉は出ない時期ですが、お子さんの小さな声に反応してあげることで、それが次の声に繋がり、ゆくゆくは言える言葉(意味のある言葉)に繋がっていきます。

 この時期に、例えばお母さんやお父さんが、お子さんが楽しく遊んでいるな・・・と安心して、スマートフォンばかり見ていて、お子さんの視線や小さな声に気づいてあげられず、反応しないことが続けばどうなるでしょうか? お子さんは視線を向けても親御さんが反応してくれないので、視線を向けることをやめてしまいます。また「あー」と声を発しても反応しなければ言葉を発しなくなってしまいます。

 少し怖いことをいうと、自宅でテレビが付けっ放しの状況だと、親御さんもお子さんの声に気付きにくくなりますし、親御さんの声もお子さんに届きにくくなってしまいます。そして、このような状況が続き、お子さん達の視線や声に対して反応してあげないことが続いていけば、お子さんの言葉の発達は、だんだん遅れてしまいます。

 インターネットやスマートフォンなどの普及によって、この「コミュニケーションの基礎」を自然に築くことが難しくなっています。しかし、言葉の発達を考えた時に、0歳の時期こそが、とても大事な時期なので、こういったことがあるのだということを知っておいていただきたいと思っています。
「言葉が出る前の言葉の発達」「コミュニケーションの基礎を作る」ということに必要な愛着の形成の一番大事な時期に0歳のお子さんがいるということを、どこか心に留めていただいて、この貴重な時間を過ごしていただきたいなと思います。

最後にメッセージ

 0歳の赤ちゃんの時期から、言葉の発達やコミュニケーションの基礎作りは始まっています。
 泣いたら抱っこして…という繰り返しの日々は、時に大変でお母さん達も疲れてヘトヘトになってしまうこともありますが、その時間が非常に貴重で大切な時間です。
 そのため、悩んだら一人で考えないで、色々な方に相談しながら、ぜひ貴重な赤ちゃんの時期を楽しんで過ごしていただきたいなと思います。

「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」

 来たる2021年3月11日で東日本大震災から10年を迎えます。
 そこで減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に、「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施いたします。

このキャンペーンは、東北大学病院、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、仙台市医師会、仙台放送の共同事業として、2020年12月より宮城県内で各種プログラムを展開いたします。

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執筆者
東北大学病院 小児科
植松 有里佳 先生
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