先生の声
子どもの発達と眠り

仙台市 北部/南部発達相談支援センター 久保田先生インタビュー

東日本大震災から10年。
子どもの発達と眠り(睡眠時間)について、仙台市 北部/南部発達相談支援センター主幹 小児科医の久保田 由紀 先生にインタビューしました。


取材日:2021年2月9日
※ウイルス感染予防に配慮して取材しております。

下記にインタビューの内容をテキスト化しております。
動画が見難い場合は、下記のテキスト版でご覧ください。

この10年で子どもの睡眠に関する変化は

 夜遅くまでゲームやインターネットを使用している子ども達が多くなっており、夜遅くに寝る小さい子どもが増えているなという印象があります。小中学生、高校生でも深夜まで起きている方が多くなっています。

 かつては、好きなテレビ番組は放送される時間が限られていたので、極端に遅くまで見ていることはできなかったと思います。
 現在は、何時でも好きな番組が見られます。そうなると際限なく見続けられてしまうので非常に危機感を感じています。

乳幼児期の睡眠時間は

 睡眠時間には個人差があるので「何時間寝ていれば大丈夫」という目安はありませんが、年齢によって必要とする睡眠時間は変化します。

 生まれたばかりの赤ちゃんは、眠って・起きて・母乳やミルクを飲んで・また眠っての繰り返しで昼と夜の区別はついていません。
 赤ちゃんは光や授乳の時間、ご家族の様子などから昼と夜の区別がだんだんつくようになりますので、日中は明るく、夜は暗く静かなお部屋で過ごしてあげてほしいと思います。

 生後4ヶ月頃からは赤ちゃんにも昼と夜の区別がつくようになり、眠る時間も安定してきます。生後8ヶ月頃になると、お昼寝は午前1回・午後1回のペースになります。1歳頃になるとお昼寝は午後1回になります。
 4歳頃になると、お昼寝をしない子も増えてきますが、日中に、機嫌よく、元気に遊べていれば問題ありません。遅い時間までお昼寝をしていると夜の寝つきが悪くなりますので、遅くとも午後3時ぐらいには起こしてあげていただきたいと思います。

幼稚園以降の睡眠時間は

 幼稚園や保育園に通っている子で10~13時間、小学生で9~11時間、中学生で8~10時間の睡眠が推奨されています。
 日本は赤ちゃんから大人まで、世界的に見ても睡眠時間がとても短い国です。夜遅く寝ている事を自慢するお子さんがいたり、大人になると睡眠時間を削って長時間働いていることを「頑張っている証」としてとらえられてしまうことがあります。

 しかし、睡眠不足は心や体にいろいろな問題を引き起こします。早起きをして、朝ごはんをしっかり食べて、日中は元気に活動し、夜は早く寝るということが、子供の成長と発達にはとても大切です。
 小学校入学前の子どもであれば「午後8時」、小学生であれば「午後9時」には寝て、朝は午前6時ぐらいに起きることを目標にしていただきたいと思います。

 睡眠が足りていないと、例えば幼稚園・保育園の子どもは、イライラしてしまって喧嘩が増えてしまう、集団での活動に参加できない、小学生以上の子であれば勉強に集中できない、ひどいと授業中に眠ってしまうということも起こります。
 睡眠時間が短いことで、やはり気分が落ち着かないということが生じるかと思います。もちろん勉強に集中できませんので、学力にも影響が出てきます。

子どもの発達と睡眠の関係は

 人の体内時計は25時間のサイクルになっており、1日24時間のサイクルと、もともとずれがあります。このずれを調整してくれるものが「朝の光」です。

 脳の「視交叉上核」という部分に体内時計がありますが、この「視交叉上核」が目から入った太陽の光を認識することで、体のリズムが24時間に調整されます。
 光を浴びないと体内時計のリズムの調節が出来ないため、睡眠時間がどんどんずれていってしまいます。

 夜は暗くなることで「メラトニン」という眠くなるホルモンが分泌されます。日中に光を多く浴びるとメラトニンの分泌量が夜に増えることも報告されています。

 また朝の光を浴びること、朝ごはんをよく噛んで食べることで「セロトニン」という神経伝達物質がよく働くようになります。セロトニンがよく働くと穏やかな気分で過ごすことができます。セロトニン神経系の働きが落ちると気分が落ち込む、発達が遅れる、攻撃的になる、睡眠の問題がさらに悪くなることがあります。

 「寝る子は育つ」という言葉がありますが、成長ホルモンは夜寝ている間に一番多く分泌されるので、睡眠が足りていない状況だと発育にも影響が出てきます。

 睡眠不足の朝は食欲がわかないことは、皆さんご経験がおありかと思います。早寝早起きをして、十分な睡眠時間をとり、朝ごはんをしっかり食べることができると、幼稚園や保育園、学校で元気に過ごすことができるため、お子さんの健康な体や心の発達を促して学力の向上にもつながります 。

参考:「早寝早起き朝ごはん」全国協議会

子どもの睡眠に良い生活習慣ポイント

 夜寝る時間を早めるためには、朝早く起こすことから始めるとうまくいくことが多いです。
 日中は十分に体を動かす遊びをして、夜は静かな遊びに切り替えます。テレビやタブレット、パソコンやスマホから出る光は目を覚ましてしまいます。少なくとも寝る1時間前には使用を控えていただくと良いかと思います。

 また入浴や歯磨きなどの「寝る前にするべきこと」に一連の流れを作ることや、寝る前に絵本を読み聞かせるなどの入眠儀式があると、スムーズに眠れることも多いかと思います。  さらに、ご家族が寝る時間が遅いと、お子さんも遅く寝る傾向があります。睡眠不足は大人の心や体にも悪い影響を及ぼします。夜は静かな少し暗くした部屋で、寝る前のお子さんとのひと時を過ごし、ご家族全員で「早寝早起きのリズム」で生活していただけると良いかと思います。

 いろいろ工夫してみても、なかなか寝付けない、寝せるために毎日かなりの努力が必要、夜中や早朝に起きてしまうことが続く時にはぜひ、かかりつけの小児科の医師に相談してほしいと思います。

最後に

 お母さんは出産という大仕事を終えた直後から、日中でも深夜でも、赤ちゃんのペースに合わせた生活になります。体力的にも精神的にも、とても大変な毎日が続きます。ほんの少しの時間だけほっと一息つくことも難しいこともあるかもしれません。

 大変な一方でお子さんがもたらしてくれる喜びや幸せな気持ちは計り知れないほど大きなものがあると思います。
 お母さんは、ご家族やお友達、保育園や幼稚園の先生、学校の先生など身近な方を上手に頼って相談したり手助けしてもらいながら子育てを楽しんでいただきたいと思います。
 お父さんには、お母さんのサポートではなく、同じ立ち位置で、喜んだり悩んだりしながら一緒に子育てを楽しんでいただけたらと思います。

「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」

 来たる2021年3月11日で東日本大震災から10年を迎えます。
 そこで減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に、「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施いたします。

 このキャンペーンは、東北大学病院、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、仙台市医師会、仙台放送の共同事業として、2020年12月より宮城県内で各種プログラムを展開いたします。

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執筆者
仙台市 北部/南部発達相談支援センター主幹 小児科医
久保田 由紀 先生
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