先生の声
防ごう!『子どもロコモ』

仙台市医師会理事 佐々木 祐肇 先生インタビュー

 東日本大震災から10年。
 仙台市医師会理事/佐々木整形外科麻酔科クリニック 副院長 佐々木祐肇先生に「子どもの運動機能」の変容と、昨今問題となっている「子どもロコモ」について伺いました。


取材日:2021年2月22日
※ウイルス感染予防に配慮して取材しております。

下記にインタビューの内容をテキスト化しております。
動画が見難い場合は、下記のテキスト版でご覧ください。

この10年間で子どもの運動機能や健康状況の変化は

 スポーツ少年団などで運動をよくする子ども達と、ほとんど運動しない子ども達に大きく別れ、二極化が進んでいます。
 「よく運動する子ども達」は運動し過ぎによるスポーツ障害が、ほとんどしない子ども達は運動不足による体力の低下や運動能力の低下が問題視されています。

 最近の子ども達の学校での骨折の割合は増加していて、30年前と比べると、中学生では約3倍となっております。スポーツ障害も多いですが、運動能力の低下による怪我も増えています。
 外来診療や運動器検診の時に子ども達を見ていると、「気をつけの姿勢」で長く立っていられない、骨盤を立てた状態で座っていられないなど、姿勢が悪い子ども達が多いことに気付きます。また、かかとをつけて「しゃがみこみ」が、しっかりとできないことなど体の硬い子ども達が多いことを実感しています。

子どもの運動機能や健康に関する仙台市の取組は

 文部科学省から平成28年度より学校検診に「運動器に関する検査」が必須項目に追加されて全国で運動器検診が始まっています。
 これは運動器疾患や柔軟性の低下など、運動器の機能不全の早期発見と早期介入によって将来にわたる健康を守ることを目的としています。
 仙台市では学校検診の前に保護者の方に保険調査票を渡し、事前に家庭において調査項目の中で該当するものがあるかどうかを調べて貰い、記入していただきます。その結果をもとに、学校医の先生に検診の際に診ていただくようにしています。

 仙台市立の学校における過去5年間の結果です。
 保健調査票にチェックを入れた割合は10%、整形外科の受診を勧めたのは4.6%、受診を勧めた中で実際に整形外科を受診してくれた方々は53%という結果でした。
 特発性側弯症や投球肩、臼蓋形成不全、オスグット病、腰椎分離症などが見つかりました。他に身体柔軟性の低下が強い子どもは多く見られ、最近言われている「子どもロコモ」の状態の子どもさんに遭遇します。

「子どもロコモ」とは

 本来「ロコモティブシンドローム(通称ロコモ)」と言っていますが、「ロコモ」というのは加齢に伴って生じるものです。中高年以降の方が運動器の障害によって移動能力が低下した状態のことを言いますが、疾患としては骨粗しょう症や筋肉量の減少による身体機能の低下をきたすサルコペニアや腰痛疾患、ひざ関節疾患などが原因です。
 最近では、子ども達が外遊びをする場所や時間が減るなど環境の変化もあって、柔軟性の低下、筋力の低下、バランス能力の低下、姿勢の変化をきたしている子どもが増えています。そのような状態を「子どもロコモ」と呼んでおり、増加傾向にあるため問題視されております。
 さらに昨年から新型コロナウイルス感染症による活動自粛の影響もあって、体力の低下や体調の変化が子ども達でも指摘されています。昨年4月からの緊急事態宣言によって自粛期間が長く取られた子どもさんも多いと思いますけれども、その後に日本臨床整形外科学会が7月・8月にアンケートを取っております。その時の子ども達のデータを見てみると、約30%の方が「体重が増えた・体力がなくなった」といった結果が出ています。

子どもの「ロコモ」の将来的な影響は

 身体の柔軟性低下は、スポーツ障害や怪我をしやすい体となります。また運動不足は骨の成長にも影響します。骨粗しょう症となることが危惧されます。
 生涯を通じて運動継続することが将来的にロコモの対策となり健康寿命の延伸へと繋がります。

子どものロコモ解消のために日常的な注意点は

 運動能力の発達には外遊びをすることが有効です。可能な限り、小さい頃から外遊びをするのが良いかと思います。
 またスポーツ少年団や中学校での部活動の際にはもちろんのこと、日頃からストレッチングをすることで、スポーツ障害を起こさないように体柔軟性を獲得することが大切です。ストレッチの大切さを日頃より説明して教えるようにしています。
 仙台市立の学校ではストレッチの方法をリーフレットとして配布しています。

具体的なストレッチは動画4分57秒頃から、ご覧ください。
動画の概要欄からストレッチ部分にスキップも可能ですので、ご活用ください。

  • 肩甲骨肩関節のストレッチ(04:57~、05:42)

  • 正座で行う肩甲骨のストレッチ(06:31~)

  • ハムストリングス(太ももの裏側)のストレッチ(06:56~)

  • 寝て行う大腿四頭筋(太ももの前側)のストレッチ(07:49~)

  • 壁を使う腓腹筋のストレッチ(08:16~)

  • ハムストリングス(太ももの裏側)のストレッチ「らくだ歩き」(08:42~)

  • 子どもの運動と健康に大切なことは

     学校の休憩時間などに、校庭で体を動かすことが大切だと思います。
     うんていや鉄棒なども良いと思いますし、縄跳びなど垂直方向の刺激は骨の成長にも良いので、是非楽しんで取り組んでいただきたいと思います。
     また運動器検診を通じて、保護者の方が子どもの体の変化に気がつくという機会になりますので、子どもをよく観察していただきたいと思います。
     日本整形外科学会では、毎年10月8日を「骨と関節の日」として運動器の啓発活動を行っております。令和3年度は「子どものスポーツとロコモ」をテーマとしております。
     子どもが生涯を通じ健康な体で身体活動ができるようになるために運動器の大切さを改めて認識していただきたいと思います。

    「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」

     2021年3月11日で東日本大震災から10年を迎えました。
     そこで減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に、「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施いたします。

     このキャンペーンは、東北大学病院、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、仙台市医師会、仙台放送の共同事業として、2020年12月より宮城県内で各種プログラムを展開いたします。

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    執筆者
    仙台市医師会 理事
    佐々木整形外科麻酔科クリニック 副院長
    佐々木祐肇先生
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