先生の声
親子で学ぶ「ファミリードクター」

はじめに

 減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施。

 その一環として、2021年3月20日に無観客でのセミナーを開催いたしました。その模様を動画とテキストで公開いたします。

 このコラムでは「かかりつけ医・ファミリードクター」に関するトークセッションパートをご紹介いたします。
 震災から10年、そして新型コロナウイルス感染症の影響が大きく続いている今、地域医療に対する関心が向いている親御さんやご家族も多いと思います。
 是非、これからの生活のヒントにお役立ていただけますと幸いです。

セミナー動画はコチラから



座長
東北大学病院小児科 科長
東北大学東北メディカル・メガバンク機構副機構長
呉 繁夫 先生

講師
一般社団法人 仙台市医師会 会長
安藤 健二郎 先生

取材日:2021年3月20日
※ウイルス感染予防に配慮して無観客で収録しております。

震災後10年を振り返って

呉先生:震災後10年を振り返って医療の観点から市民の方々への影響について、安藤先生からお話しいただけますでしょうか。

安藤先生:私のクリニックは仙台市太白区四郎丸にございまして、閖上の内陸側の町です。震災時に海とクリニックの間に東部道路という幹線道路があったお陰で、津波の被害はありませんでしたが、海側の閖上地区は甚大な津波の被害がありました。震災で閖上地区から通院されていたたくさんの患者さんを亡くしました。
私自身が津波に遭ったわけではないのに、亡くなった方のことを考えると夜が恐ろしく眠れなくなりまして、1か月ほどで立ち直ったものの、急性ストレス障害のような一次的な心の症状が強く出ました。

私のように津波の被害を直接受けていない方でも一時的に心への影響が出ているので、直接被害を受けた方には、より強い心理的な外傷があったに違いないと思います。

辛い経験は人それぞれに遭遇した経験が違えば、影響もさまざまに違います。同じ体験はひとつもなく、頑張れ頑張れという善意の励ましを逆に辛く感じ、今でもなかなか心が晴れないという方が多くいらっしゃったと思います。
一方で、誰かの言葉や勇気ある行動を目にして、自分の心を引っ張り上げてあげてもらったという方もたくさんいらっしゃると思います。
そのなかには、被災前より心が成長し、精神的に強くなった方もいらっしゃると思います。 今はまだ心が晴れないという方も、いずれは繋がっている人の言葉、存在などの影響によって良い方向に向かっていくと私は信じています。

地域や家族との絆が人間にとって必要なモノだと思います。どこかで誰かと繋がっているということが人間の営みに結び付く。傷ついた人が浮上していく姿を周囲が優しく見守り、ときに励ます。震災を通して、そんな人間・日本人の強さを見たと思います。

日本は美しい自然に恵まれている半面、自然災害の多い国です。毎年いろいろな災害があるなか、『心の備え』が大事だと思います。東日本大震災から10年が経ち、これからどう自然災害と向き合っていくのかが重要ですが、震災を知らない世代のお子さんに親から子に伝えることで万が一の時を想定した心の予行演習をすること。そうすることで、心の強いお子さんが育つことを願っています。

呉先生:安藤先生が診られているお子さんのなかには、心の悩みをなかなか打ち明けられない方もいますよね。そういった子どもと向き合う時に気を付けることはありますか?

安藤先生:やはり『聞く』という姿勢に尽きると考えてます。
私のクリニックは『町のかかりつけ医』という、いわば総合相談所のような存在を目指しています。なるべく患者さんの話を聞くのはもちろんですが、患者さんのことだけではなくその親やお子さんなどご家族のことも伺いながら、どんな問題を抱えているのか一緒に考えていくことが大切だと思っています。

呉先生:なかなか最初は悩みを打ち明けられない方も、面会回数を重ねて話を聞くことで少しずつ心を開いてくれるということでしょうか?

安藤先生:地域のかかりつけ医は、家のすぐ近くに存在するのがいいところです。何度か来てもらうちに、医師と情報が共有されてお互いに打ち解けていくことが自然な悩みを打ち明けていただく方法なのではないかと考えてます。

呉先生:お子さんが不登校になる前兆として、どこか体の不調を訴えて病院にいらっしゃる方が多いですよね。でも診察すると器質的な病気がなく、精神面から来る不調なのではないかと考える場合がありますが、先生の大人の患者さんでもそういった傾向はあるんでしょうか?大人と子どもでは違うんですかね?

安藤先生:大人も子どもも共通する部分があると思います。診療所を始めて約20年、単純に見える頭痛や腹痛の裏には何かが隠れていることが多いです。
定期的に腹痛が来る、また一定の時期に頭痛が来るという患者さんにお話を伺うと、ご主人が病気になられたことがストレスに繋がっていたりと、患者さんひとりだけの問題ではなく、ご家族の問題だったケースがあります。家族の中で受けたいろいろな影響が病気の要因に繋がるという事例がたくさんありますね。

呉先生:表面的な消化器や神経系の症状だけでなく、裏に隠れている原因を見逃さないことが『かかりつけ医』の大事な事なんでしょうね。

安藤先生:やはり初診だけでは全ては分かりません。かかりつけ医は「また来てください」とお声掛けして何度か来ていただくことで全容を見えてきます。

呉先生:是非、かかりつけ医を見つけていただければと思います。

地域医療における「かかりつけ医」の役割とは

安藤先生:かかりつけ医は地域の医療を受け持つ責任があります。診察は1対1ですが、家族や学校、職場、地域における患者さんの立場や背景を気にかけながら、お話を聞くことを心掛けています。目に見える症状だけにとらわれず、いろんな絆の中で人間の心がどう動いているのかを考えていきたいと思っています。先程も申しました通り、初診だけでは分からないので何度かお越しいただいてお話しを聞くようにしています。

地域の診療所は、いろいろと専門は違いますが、総合診療ということ専門以外のこともたくさん学ばなければなりません。
総合診療を行う医者は『地域医療の相談窓口』だと考えます。本人だけ、また専門分野だけでなくご家族が不調の場合は、とりあえず行って相談してみる『気軽に行ける医療の相談所』になれることが、かかりつけ医の役割だと思います。
相談しやすい医者を見つけていただき、医者との絆を築いていただければと思います。

呉先生:ありがとうございます。最近『ファミリードクター』とよく言われますが、親子を一緒に診ていただくお医者さん。これは、かかりつけ医と同意語と考えて宜しいんでしょうか?

安藤先生:同一と考えていただいてよいかと思います。

呉先生:例えば、患者さんが感染症にかかった場合、ご家族は大丈夫ですかと気をまわしてくれる先生でないといけないということですよね?

安藤先生:そうですね。「おじいさんはどうなりました?」など、医者側から聞けるような関係性を作れる医者が理想だと私は思っています。

呉先生:確かに、幼児期感染症などでは兄弟姉妹間で病気の「うつしあい」をしてしまうケースが多いですが、家族ぐるみで適切な対策を考えなければ良くならないですよね。

安藤先生:そうなんです。ご家族の情報はとても大切だと思っています。

呉先生:ありがとうございます。ぜひ家族みなさんで頼れる地域の医師を見つけて、気軽に医療の相談をできるファミリードクターを持っていただければと思います。

安藤先生への質問:かかりつけ医の選び方は?

質問:かかりつけ医の選び方のアドバイスを教えてください。かかりつけ医は複数あった方が良いのでしょうか?

呉先生:安藤先生、こちらについてはいかがでしょうか?

安藤先生:なかなか1人の医者で全ての病気を診れる方はいないと思います。やはり症状によって専門とされる先生を核としていただければと思います。
医師も人間ですから、相性というものがありますね。日本の医療の良い点は『フリーアクセス』といって、いろいろな医師の診察が受けられるところなんです。
いろいろと自分で行ってみて自分に合う医師を見つけることが良いかと思います。

安藤先生への質問:忙しそうな「かかりつけ医」への相談方法

質問:かかりつけ医の先生が忙しそうで、相談を躊躇してしまうことが多いです。何か良いアドバイスはありますか?

呉先生:なかなか答え難い質問かと思いますが、安藤先生いかがでしょうか?

安藤先生:このご質問は、私たちが反省しなければいけない点ですね(笑)。
私たちも毎日毎日ずっと忙しいわけではありません。たとえば私のクリニックの場合は、月曜の午前中は忙しいけれど、金曜の午後は比較的時間が取りやすいです。率直に「少し相談したいことがあるのですが、時間を取れる日にちはありますか?」など聞いていただければと思います。
私は仙台市医師会の会長を務めておりますが、仙台市には、親身に相談に乗ってくれる医師がたくさんいますので、是非ご相談いただければと思います。

呉先生:暇な時をみつけて、狙って行くことがひとつの考え方だということですね。
小児科の立場から付け加えますと、お子さんの症状を事前に整理して診療に来て下さるととてもスムーズです。たとえば、発熱、嘔吐、下痢などの症状が起きた日にちと時間を時間軸で書いたものを用意していただく。医師はそれを見るだけで症状が把握できるので、説明の時間が短縮でき、その先の診療や相談に使える時間が増えると思います。
先生も忙しそうな顔はしないで欲しいなと思いますね(笑)。

安藤先生からのメッセージ

安藤先生:新型コロナウイルスが、仙台でも猛威を振るっています。仙台市医師会も検査や診断、また患者さんを隔離する際、病院以外にも、軽い症状の方にはホテルへ一時入っていただく際の管理も行っています。
やれることは何でもやって地域を守る、仙台を守ることに貢献していきたいと思います。皆さんと一緒に頑張っていきたいと思います。

「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」

 2021年3月11日で東日本大震災から10年を迎えました。
 そこで減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に、「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施いたしました。

 このキャンペーンは、東北大学病院、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、仙台市医師会、仙台放送の共同事業として、2020年12月より宮城県内で各種プログラムを展開いたしました。

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執筆者
親子で学ぶ、ヘルスケア事務局
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