先生の声
親子で学ぶ「子どもの健康作り」

はじめに

 減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施。

 その一環として、2021年3月20日に無観客でのセミナーを開催いたしました。その模様を動画とテキストで公開いたします。

 このコラムでは「子どもの発達」に関するトークセッションパートをご紹介いたします。
 震災から10年、そして新型コロナウイルス感染症の影響が大きく続いている今、地域医療に対する関心が向いている親御さんやご家族も多いと思います。
 是非、これからの生活のヒントにお役立ていただけますと幸いです。

セミナー動画はコチラから



座長
東北大学病院小児科 科長
東北大学東北メディカル・メガバンク機構副機構長
呉 繁夫 先生

講師
仙台市北部/南部発達相談支援センター 主幹/小児科医
奈良 千恵子 先生

東北大学病院 小児歯科 科長
山田 亜矢 先生

東北大学病院 精神科
大塚 達以 先生

取材日:2021年3月20日
※ウイルス感染予防に配慮して無観客で収録しております。

震災後10年間での子育て環境の変化について

呉先生:震災からの10年、本当に色々なことがありましたが、お子さんの生活習慣も随分変わってきたように思います。この観点から奈良先生、普段お感じのことをお聞かせいただけますか?

奈良先生:震災後、核家族化や共働きの家庭が増えて、ご両親がとても忙しくなったと感じます。また、コロナの影響で近所づきあいやママ友と話す機会が減り、子育ての情報が得にくいというお話も耳にしますね。
コロナの影響でおうち時間が増えた点も、子育て環境の大きな変化と思います。
そのような状況下で私たちは発達障害に関するいろいろな相談を受けますが、「子どもが発達障害ではないか?」と心配になったら、まず確認してもらいたいのは『生活リズム』なんです。おうち時間が増えると、生活リズムが知らず知らずのうちに崩れてしまうので注意が必要です。
まずチェックしたいポイントは「睡眠時間」です。
子どもに必要な睡眠時間は、幼児期(3歳~5歳)は10時間から13時間程度、小学生(6歳~13歳)では9時間から11時間程度と言われています。
このお話しをするとお母さま方は「こんなに必要なの?」と驚かれますが、日本は世界の中でも大人の睡眠時間が短い国で、大人に引きずられるように子どもの睡眠時間も短いと言われています。
夜の睡眠中には成長に必要なホルモンが分泌されています。睡眠は子どもの体と心の成長にとって非常に重要なものとなりますので、是非、充分な睡眠時間が取れているか確認してください。

もう1点は『メディアの視聴時間』です。コロナによって『おうち時間』が増え、低年齢からメディアを見る時間が増えた結果、言葉の発達が遅れた、癇癪を起こすようになったという相談が増えています。
メディア視聴は時間を決めて楽しんでいただくことが非常に重要となります。
また子どものコミュニケーション能力の発達には、人と人との関わりが大切ですので、お父さんお母さんが子どもとしっかり向き合って関わってあげる時間を確保してほしいと思います。
さらに外で遊ぶことがなかなか難しい今、運動不足の子どもが多く見受けられますね。小さいうちであれば、おうちの中でも充分に体を動かすことやご両親とスキンシップを取ることも容易です。(他の方と密接にならない)広い公園に行って、思いっきり体を体を動かすことを心がけてもらえたらと思います。

呉先生:ありがとうございます。今日のテーマが『子どもの生活習慣』ということですが、大人の生活習慣であれば「何を食べるか、運動しているか」に気を付ける事となります。子どもの場合は、基本的に「食う、寝る、遊ぶ」に気を付ける事ですよね。
先ほど、お話しいただいたようポイントを『子どもの目線』でチェックしていただければと思います。

褒めて育てる子育てとは?

呉先生:続いてのテーマについて、褒めて子どもを育てるとよく言いますが、いつどのように褒めればいいんだろう?と悩む親御さんも多いと思いますが、いかがでしょうか?

奈良先生:子どもは大好きなお父さんお母さんに「注目してもらいたい」と思っています。『褒めて貰える』という形で注目される機会が減ってしまうと、子どもは注目してもらうために、お父さんお母さんが困るイタズラをしようと思ってしまいます。最近わざと悪いことをするようになったなと感じたら、褒める回数が減っているのかもと見直していただけると良いと思います。
また「どうやって褒めたら良いでしょう」と相談いただきます。褒め方に迷ったなら、実況中継で大丈夫です。例えば「もう靴下はいたんだね、すごいね」というように「ちゃんとやっているね、見ているよ」と伝えるだけで、充分褒めていることになります。あまり固く考えずに、お子さんがやっていることを言葉にしてあげてください。

日本のお母さんは人前で頻繁に褒めたりしません。
成果が出たことだけではなく、何かをやろうとした、やっている最中の状態でも、しっかり褒めてあげて、褒める回数を増やして欲しいと思います。
たとえば、お子さんに「片付けてね」と言って、お子さんがおもちゃを手にしたら「すぐお片付けしてえらいね」と褒めてあげる。そうすると、子どもは「僕(私)を、すぐ片づける子だって信じてくれてる」と思って、片づける方向に行動が触れていきます。
ちゃんとやる子だと信じているよ!とメッセージを伝えることがとても大切なことです。是非、そういった形で褒めていただければと思います。

呉先生:ありがとうございます。大人でも褒められて悪い気がする人はいないので、是非、良いところを見つけて褒める事を実践してみてください。

震災後10年で変わった子どもの『お口の健康』

呉先生:続いては口腔に関するテーマです。虫歯の問題は、宮城県の子どもの虫歯の本数は、全国平均よりも多いと言われています。
県内の子どもの健康を考える上で避けては通れない問題です。最近は少し良くなっているようですが、山田先生いかがでしょう?

山田先生:東日本大震災と新型コロナウイルスは自然災害と感染症で全く異なる事ですが、『お口の健康』に対しては共通した問題が起きていると感じています。
一番大きい共通点は、外出を控えなければならず、非日常の生活を長い期間強いられて生活リズムが乱れがちになる。そうすると、歯磨きのタイミングを失って歯磨きをさぼってしまう、ダラダラ食事やおやつを取ることでお口の健康に大きな影響が生じてしまうんです。
おうち時間が増えて運動不足や日光に当たる機会も少なくなると思いますが、運動や日光に当たる事は子どもの骨や歯の成長発育にとても大切なものです。その点からも、今後大きな影響が出てくるのはないかと危惧しています。

また学校での歯磨きも感染症対策として中止されていることもあります。その他にも、早くごはんを食べて早くマスクをしなくちゃと思うあまり、食事中によく噛まなくなってしまう。よく噛まないと唾液の分泌量が減ってしまうので、虫歯や歯周病、歯肉炎や口臭に影響を及ぼします。
さらに会話や歌う機会の減少で、口のまわりの筋肉や舌の筋肉を動かさなくなることや、マスク着用で表情を意識しなくなることでの表情筋を動かさなくなることが歯並びや噛み合わせ、顔やあごの形成にも影響してきます。そのため、今後非常に問題になるのではないかと危惧しております。

震災時と同じく、今回の新型コロナ感染を恐れて歯科や医科の受診を控える傾向があります。
また東北大学病院でもマスクや手袋等の衛生用品不足や感染予防で一時期休診/縮小したことで治療を中断した患者さんが、まだ戻ってきていない。また治療再開された患者さんでも以前より、お口の中が汚れている、新しい虫歯が出来ているといった問題が実際に起きています。 このように、震災も新型コロナウイルス感染症も、お子さんのお口の健康に大変影響を与えていると思います。

呉先生:ありがとうございます。メディア視聴時間が増えることも、虫歯の増加と関係しているんでしょうか?

山田先生:メディア視聴やゲームの時間が長くなると、どうしても下を向く時間が増えてしまいます。そうすると、舌の位置が下がったり、お口がポカーンと開きがちになって口の筋肉がゆるんでしまうことで、口のまわりや顎の筋肉が減少してしまいます。
また口が開いてると口内が乾燥してしまうため唾液による歯の自浄作用が働かなくなります。そうならないためにも、常に背筋を正すように気を付けていただきたいと思います。また出来れば口や体を動かす遊びを実践していただければなと思います。

呉先生:家族と一緒にゲームをして喋ったり、笑ったりすることは(お口の健康にも)良いことなんですね。

山田先生:体を動かすようなゲームもありますので、全てがダメではなく、家族のコミュニケーションは非常に大事だと思いますので、程よく取り入れていただければ良いかと思います。

日常から出来る子どものお口の健康維持方法は?

呉先生:こちらも山田先生から、どんなことに注意すれば良いか教えていただけますか?

山田先生:奈良先生のお話しにもありましたが、お口の健康・体の健康には『規則正しい生活習慣』が大事です。歯科の場合は食べたら歯磨きする習慣です。最近では歯と歯の間を清掃する『フロス』を使用することも習慣にしていただきたいです。 その他にもダラダラと飲食しないこと、唾液を良く出す/口腔の筋肉を鍛えるために『よく噛む』こと、そして表情筋を意識すること、日常的にとる水分は水やお茶にするのも良いでしょう。ちょっとしたことから『お口の生活習慣』を心がけていただきたいと思います。 大人になってから正しい生活習慣を身に着けようとしてもなかなか難しいですが、子どもの頃に身に着けた習慣は大人になっても自然に行動できるものなので、是非お子さんが小さなうちに親子で意識して習慣づけをしてほしいと思います。

それでも継続は非常に難しいことなので、歯科医院を定期的に受診いただき、歯の管理や予防を受けるだけでなく、お口の健康を守ろうという意識を高く維持する機会として活用いただければと思います。
いつか子どもは親の手を離れていきますが、子どもが自主的に規則正しい生活や歯科医院への定期受診の習慣が身についていれば、大人になっても生活習慣病予防に繋がると思います。

昨今『食べる、話す、呼吸する』といった口腔機能が低下傾向にあると言われています。 高齢者になると低下が著しいと言われていますので、日常的に『よく噛む』ことを意識していただければと思います。心や体の不調にも気づきやすくなりますので、是非、食事の際には、お子さんの食事する様子を見ていただきたいと思います。

ただし、しっかりとお口の健康管理を行っていても、歯の強さや形、歯の生え方には個人差があるので、専門の歯科医院を定期的に受診して予防的な処置を受けることが大切です。特に奥歯の溝は虫歯になりやすいため、厚生労働省で推奨している『シーラント』というお薬を詰めることをおすすめします。

乳歯や一部の永久歯は赤ちゃんがお母さんのおなかにいるときから作られ始めます。
お子さんの歯が強くなるかどうかは妊娠中の健康が影響してきますので、特に女性は健康に気を付けていただきたいですし、妊娠に気づいたらお父さんお母さんは健康的な生活を送ることを心掛けてほしいです。それが将来的にお子さんのお口の健康と全身の健康に繋がっていくと思います。

呉先生:お子さんのお口の健康には、お子さんの生活習慣だけでなく、妊婦さんの生活習慣も非常に大切で、それは『子どもの一生の財産』になるんだと思います。

「子育て」で両親・家族が気を付けるべきこととは?

呉先生:子育てとは基本的に上手くいかないものですよね。悩みの無い人はいないと思いますが、子育てにおいて親が気をつけるべきことを精神科のお立場から大塚先生よりアドバイスいただけますでしょうか。

大塚先生:100人の親がいれば100通りの子育てがありますので一概に子育ての正解は言えませんが、精神科医の立場から感じることは『親が不安を抱えていると子どもに良い影響を与えない』ということです。
子育てには不安が一杯だと思いますが、私は精神科でお子さんのメンタルヘルスに関わっているため、特に『お子さんの発達』に対する不安を外来で伺います。
子どもが小さい頃は周りの子どもと比べて、できること・できないことですぐ不安になってしまいます。家族で不安を共有できれば良いですが、お母さん1人で不安を抱えてしまうと、親子双方のメンタルヘルスに良くありません。
この場合、ひとつのことに着目しすぎると不安な気持ちが生まれます。一歩引いて見れば「うちの子は、あれはできないけど、これはできる」という発見がいくらでもあると思うんです。周りの子どもと比較をしすぎず、ひとつのことに捉われないでいただければ、少しは子育ての不安も減るのかなと思います。

呉先生:先程の奈良先生の話にもありましたが、子どものできないことばかりを見るのではなく、優れているところを見てあげましょうということですね。

大塚先生:その通りです。どうしてもマイナスの方面に目が行きがちなのが人間ですので、ちょっとした良い点を見つけることは努力や練習が必要なのかなと思います。
また褒めることは一歩引いて見なければ出来ないので、親御さん自身が不安を感じた時には、まずは家族に不安を共有することや子どもの褒めるポイントを聞いてみるなど、ひとりで抱え込まないでいただければと思います。

呉先生:大好きなご自身のお子さんなので、是非よく見ていただいて、出来ないことよりも良いところを見つけてあげて欲しいですね。

子どもの個性を伸ばす、親の接し方

呉先生:こちらも大塚先生にお伺いしたいと思います。子どもの個性を伸ばすために、どのような心がけが必要なのでしょうか?

大塚先生:先程の子どもの良いところを見つけることにも繋がってくることですが、子育てをしていると、子どもに対する期待がどうしても大きくなってしまいますね。「この子は、こうあって欲しい」という親の想いが強くなりすぎると、子ども本来の個性を見逃してしまうことに繋がりかねません。親なので難しいことではありますが「今こんな事 に興味を持っているんだ、こんなふうに反応するのね」と客観的に見てあげれば、その子の個性が見えてくると思います。

また時期も大切で、小さい頃に引っ込み思案だった子どもが何かをキッカケに凄く自分を表現するようにもなります。一方で、小さい頃は自由奔放だったけれども、周りから色々と言われて自分を出すのを止めようと殻にこもってしまうようなケースもあります。
お子さんの年齢・時期にもよりますが、一歩引いて、あまり親の想いを押し付けないことを注意していただくと、きっとお子さんの興味や関心が向いている物事が自ずと分かってくるのではないかと思います。

呉先生:ありがとうございます。親は子どもの多様な価値を見つけるためには、やはり両親側にも余裕が必要なんですかね?

大塚先生:その通りですね。無理やり関連づけるわけではありませんが、社会全体がコロナ禍で非常にストレスが高まっており、余裕がなくなり、思考や視野が狭くなってしまうことで、ひとつのことに捉われ過ぎてしまう傾向があるのかと思います。
ひとつのことに捉われてしまった場合は、自分自身に余裕がなくなっているのではないかと常に問いかけてみる必要があると思います。また周りの家族が、気にして声を掛けてあげるような家族の絆が大切なんだと思います。

呉先生:中学生や高校生の自殺が昨年に比べて増えているという悲しい現実もあります。大塚先生から、今だからこそのメッセージはありますか?

大塚先生:自殺の要因は多岐に渡るので一概には言えませんが、ストレスがかかるとどうしても思考が狭くなりますね。大人ですらそうなのに、大人より狭い世界に住んでいる子どもにしてみたらもっと大変です。大人から見れば些細なことでも、子どもにとってはとても重大に感じてしまう。すると、ひとつのことに捉われて「自分なんかいない方がいいんじゃないか」という想いに繋がってしまい、その想いから離れられなくなってしまうこともあります。
子どもを取りまくのは親だけではありません。学校の先生をはじめ、周囲の大人が声をかけてある環境づくりも大事だと思います。

(以下、質問パートに続く) 質問パートのコラムはコチラから

「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」

 2021年3月11日で東日本大震災から10年を迎えました。
 そこで減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に、「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施いたしました。

 このキャンペーンは、東北大学病院、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、仙台市医師会、仙台放送の共同事業として、2020年12月より宮城県内で各種プログラムを展開いたしました。

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執筆者
親子で学ぶ、ヘルスケア事務局
医療施設情報