先生の声
親子で学ぶ「感染症対策」

はじめに

 減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施。

 その一環として、2021年3月20日に無観客でのセミナーを開催いたしました。その模様を動画とテキストで公開いたします。

 このコラムでは感染症対策に関するトークセッションパートをご紹介いたします。
 震災から10年、そして新型コロナウイルス感染症の影響が大きく続いている今、災害と感染症・感染症と健やかな子どもの成長に対して心配されているご両親やご家族も多いと思います。
 是非、これからの生活のヒントにお役立ていただけますと幸いです。

セミナー動画はコチラから



座長
東北大学病院小児科 科長
東北大学東北メディカル・メガバンク機構副機構長
呉 繁夫 先生

講師
東北医科薬科大学医学部感染症学 特任教授
東北大学 名誉教示
賀来 満夫 先生

取材日:2021年3月20日
※ウイルス感染予防に配慮して無観客で収録しております。

震災後10年で感染症対策は、どう変わった?

呉先生:震災後10年で感染症対策がどう変わったか、教えていただけますでしょうか。

賀来先生:2011年頃の避難所はまさに三密で、密閉した空間の中に多くの人が密集して生活しているような状態でした。

そのような中でも被災者の皆さんが、手洗いやうがい、マスク着用等の衛生面で努力されていたので大きな感染症は起きなかったんです。

しかし今回、人類が経験したことのないような新型の感染症が起きたことで、マスクや手洗いの大切さが日本だけでなく世界中で再認識されました。
感染症対策を守ろうとする極めて大きな意識変化が起こってきたと思います。

呉先生:それでは最近の避難所における感染症対策は10年前と比べて進歩しているのでしょうか?

賀来先生:地震などの災害が起きると避難所が開設されますが、避難所の中にテントを設けたり、仕切りを用意したりと避難所の構造自体が変わってきました。
人々の意識も、元々手洗いはされていましたが「どういう風な手洗いの仕方が良いのか」まで意識されるようになりました。またユニバーサルマスキングというお互いしっかりマスクをつけようという意識に変わってきています。ここ10年で、そういった意識は大きく変わったと思います。

呉先生:なるほど。新型コロナウイルス対策は他のウイルス対策に比べて特徴的な点はあるのでしょうか?

賀来先生:新型コロナウイルス感染症の特徴は口の中でウイルスが増えていくことです。そのため、咳やくしゃみの症状が無くても、会話をするだけで口からウイルスが外に出て周りの人にうつってしまいます。ですから、まずはしっかりマスクをつけることが非常に重要になってきます。

私たちは震災時に「しっかり読んでしっかり予防をしよう」という感染予防のガイドブックを作りました。様々な感染対策の話が溢れていますが、何が一番大切な感染対策かを県民・市民の皆さんに理解いただくためにリーフレット配布等を行いました。 また東北大学病院では広報の方々と一緒に『おててテトテト』というオリジナル手洗いうたを作り、お子さんの健康管理に努めてまいりました。

そして今回、市民向けの『新型コロナウイルス感染症市民向け感染予防ハンドブック』を作りました。

新型コロナウイルス感染症は会話するだけでも感染させてしまうことが特徴ではありますが、やはりしっかり手洗いをして手についてしまったウイルスを除去すること。
咳・くしゃみがなくともマスクをすること。飛沫で周りの机や椅子にウイルスが付着するため、定期的に拭き取る。室内の空気も会話でウイルスが充満するため、こまめな換気で除去する。
まさに新型コロナウイルスによって、私たちが行わなければならない感染対策が明確になったと考えていただいたら良いと思います。

呉先生:今回、賀来先生に登壇いただき、信頼できる情報ソースがあることは心強い限りだと思います。
特に昨今は科学的にどうかと思う様な感染対策が溢れていますので、是非、信頼できる情報源から感染対策を入手いただき、実行していただくことが大事なんだと感じました。賀来先生、どうもありがとうございます。

▼参考:オリジナル手洗いうた「おててテトテト」

▼参考:新型コロナウイルス感染症 ~市民向け感染予防ハンドブック 第3版

子どもを感染症から守るには?

呉先生:今、子どもの感染症が少なくなっています。小児科の外来を行っていると、感染症自体が減っていると感じますが、いかがでしょうか?

賀来先生:今年はほとんどインフルエンザの流行が起きていませんよね。社会全体がしっかり手を洗い、マスクをするといった基本的な感染症対策を行うことで、こんなに感染症が減るんだと実感しました。
新型コロナウイルスは我々が免疫を持っていないので、流行していますが、その他の感染症は抑えられています。親御さんは、そんな感染対策ばかりしていると、お子さんが将来ウイルスに弱くなってしまわないかと不安になる方もいらっしゃると思います。

我々の口の中には無数の菌がいます。体の表面や環境中にも様々な菌がいます。マスクを付けていても一定量は体内に入ってくると思います。
もちろん病気の症状を引き起こすウイルスへの感染対策は行いながら普段の生活を行っていただければ必要な免疫は出来てくると私は考えています。そのため、これまで通り、しっかりと手を洗う、マスクをつけるという感染症対策を行っていただければと思います。

呉先生:小児科医の立場からも、感染対策を行うとこんなにも病気を防げるんだと、この1年驚きでした。逆に言うと、私たちの普段の生活は感染を繰り返している毎日なんだと実感しました。

賀来先生:感染症は自身の病気ではありますが、他者にうつしてしまうことで病気が広がってしまう。社会全体が感染症対策に取組むと感染症は減るんだなと改めて実感しました。

呉先生:賀来先生、もう1点質問させていただきます。これから新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりますが、全員が接種した後の子ども達の感染症はどうなっていくと思われますか?

賀来先生:それは凄く重要なことですよね。新型コロナウイルスは変異していますから、恐らく来年は新たなタイプが出てくるかもしれません。ただ、それに効果的なワクチンが出来ると思いますので、しっかりとワクチンを接種することが大切です。

来年以降は、ワクチン接種が広がることでマスク着用の頻度が少し下がるかもしれません。 それでも感染対策は同じように守ること、ポイントポイントで手洗い・マスク着用が大切だということが今回、私たちが学んだ大きな事ではないかと思います。

呉先生:ありがとうございます。賀来先生の話の冒頭にもありましたが、新型コロナウイルスのワクチンは毎年打たないといけないような状態になるのでしょうか?恐らく視聴者の皆さんも興味がある事かと思いますが、いかがでしょうか?

賀来先生:インフルエンザのワクチンを毎年打ちますよね?これもウイルスのタイプが毎年変わるからです。それと同じように、コロナウイルスも毎年ワクチンを打つようになる可能性はあると思います。
将来的にコロナウイルスに対する免疫ができて重症化しないとなれば、ワクチンを打つ必要性は減っていくかもしれませんが、今後数年間は毎年新しいタイプのワクチンを接種する必要があるのではないかと思います。

呉先生:ありがとうございます。ポストコロナの見通しについてもお話しいただきました。

賀来先生への質問:感染症対策と免疫づくりは両立する?

質問:子どもたちにマスク着用の習慣がつき、風邪をひく子がほとんどいなくなったと思います。その一方で、いろいろな感染症の自然罹患(しぜんりかん)が減ることで、将来、健康的に弱い大人になるのではないかという不安があります。対策などあれば教えていただきたいです。

呉先生:先程の賀来先生のお話しにもありましたが、この点、親御さんは心配しなくて大丈夫でしょうか?

賀来先生:心配されている方が多いと思いますが、先程申しました通り、地球上には人間以外の微生物がたくさん住んでいます。私たちのお腹の中や口の中にもいます。宇宙服のようなものを着て生活しない限り、すべての微生物の侵入を防ぐことはできません。日常生活の中で病気を引き起こす力のない微生物も、おそらく一定量の微生物は体内に入ってきていると思います。
微生物には免疫を高める効果もあります。マスクや手洗いはしていただきながら、微生物を怖がり過ぎずに普通の生活をして遊んでいれば、自然に微生物を取り込んで免疫は高まっていると思いますので過度な心配はしなくてもよいと思います。

呉先生:ありがとうございます。感染対策で免疫の弱い子が出来るようなことは、恐らく無いだろうということで、その点はご安心いただきたいと思います。

賀来先生への質問:乳幼児期の感染症対策は?

質問:0~3歳頃の乳児期は、手洗い、うがいが実践できません。また、アルコール消毒によって手が荒れてしまうこともありますが、乳児期の子どもに対して親ができる予防方法をアドバイスください。

呉先生:3歳くらいだと確かに手洗いやうがいは出来ませんよね。そうすると親御さんは、どうしたら良いか迷われると思いますが、この点、賀来先生からアドバイスいただけますでしょうか?

賀来先生:確かに0~3歳児のお子さんだと、自分で手を洗ったり、うがいをすることはできませんね。ウェットティッシュや水につけたタオルなどで手をふいて、汚れを取ってあげるだけでも充分効果的です。
微生物は口や鼻から体内に入りますが、人間は無意識に口や鼻を手で触ってしまいますよね。特に小さいお子さんは口や鼻を手で触りますので、定期的に手の汚れを拭いてあげることが大切なんです。
アルコール消毒までできなくても、汚れをふき取ってあげるだけで非常に効果があることを是非、ご理解いただければと思います。

呉先生:たとえ自分で手洗いができなくても、清潔にしてあげるだけで十分効果があるということですね。

賀来先生:そうですね。お子さんの手を石鹸で洗っあげることが望ましいですが、少し濡れたタオルやウェットティッシュで手を拭いてあげることで良いと思います。

呉先生:質問の中に”うがい”もありましたが、こちらはいかがでしょうか?

賀来先生:お口の中を清潔にしてあげるということでは、濡れた脱脂綿を使って口の中を清潔にしてあげるだけでも効果的だと思います。口腔ケアはとても大切なことですので、是非、取り組んでいただければと思います。

呉先生:賀来先生が、お子さん向けに手洗いのうたを作られたと思いますので、再度、ご紹介いただければと思います。

賀来先生:正しい手洗いの方法を身に着けられる手洗い歌『おててテトテト』をつくりました。小さいお子さんでも見様見真似で歌ったり踊ったりできるものなので、是非、小さいころから手洗いを習慣づけてもらえればうれしいです。

呉先生:これはどこで手に入りますか?

賀来先生:東北大学病院のホームページからダウンロードできますので、是非、ご覧いただければと思います。

呉先生:これはお子さんも楽しくできる内容なんですか?

賀来先生:そうですね、お子さんも凄く楽しく踊ってくれています。スグに覚えられると思います。
それから感染予防ハンドブックも非常にわかりやすい内容になっています。家庭の中でも、また震災時の避難場所でも使える内容になっています。是非、正しい情報に基づいて、しっかりと感染予防していただければと思います。

呉先生:たくさん有益な情報を頂戴しまして、ありがとうございました。

▼参考:オリジナル手洗いうた「おててテトテト」

▼参考:新型コロナウイルス感染症 ~市民向け感染予防ハンドブック 第3版

賀来先生からのメッセージ

賀来先生:新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっています。しかし、この感染症は必ず克服できると思っています。そのためには、1人1人がしっかりと感染予防に努めて、お互いを思いやる気持ち、社会全体で対応していく気持ちがあれば、必ず克服できると思いますので、頑張っていきましょう。

「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」

 2021年3月11日で東日本大震災から10年を迎えました。
 そこで減災情報の風化を防ぐため、また新型コロナウイルス感染症の流行による健康情報伝達の不足を懸念し、次世代を担う子供たちを持つ両親・家族を対象に、「親子で学ぶ、ヘルスケア~これからの10年に私たちができること~」をタイトルとした啓発キャンペーンを実施いたしました。

このキャンペーンは、東北大学病院、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、仙台市医師会、仙台放送の共同事業として、2020年12月より宮城県内で各種プログラムを展開いたしました。

おすすめ関連記事

「親子で学ぶ、ヘルスケア」インタビュー 呉 繁夫先生
記事はコチラから

「親子で学ぶ、ヘルスケア」インタビュー 安藤健二郎先生
記事はコチラから

「親子で学ぶ、災害時の感染症対策」 児玉栄一先生
記事はコチラから

「子どものお口の健康 ~虫歯編~」山田 亜矢 先生
記事はコチラから

「子どものお口の健康 ~お口の発達編~」山田 亜矢 先生
記事はコチラから

「子どもの発達と絵本の読み聞かせ」土谷 真央 公認心理師
記事はコチラから

「子どもの発達とお手伝い」土谷 真央 公認心理師
記事はコチラから

「子どもの肥満 ~なぜ悪い? どうすれば?~」 菅野 潤子先生、三浦 啓暢先生、鈴木 智尚先生
記事はコチラから

「子どもの肥満を予防する食育」菅野 潤子先生、三浦 啓暢先生、鈴木 智尚先生
記事はコチラから

「生まれてからの1年間にパパ、ママにやってほしいこと」植松 有里佳 先生
記事はコチラから

「子どもの発達とメディア視聴」植松 有里佳 先生
記事はコチラから

「うちの子 発達大丈夫かなと思ったら」奈良 千恵子 先生
記事はコチラから

「上手に褒めて育てるためのポイント」奈良 千恵子 先生
記事はコチラから

「三世代コホート調査から分かった震災による影響や生活習慣の変化」小原 拓 先生
記事はコチラから

「子どもの発達と眠り」久保田 由紀 先生
記事はコチラから

「子どもの発達と体を使った遊び」久保田 由紀 先生
記事はコチラから

「子育ては焦らず、急かさず、見守りも大切」大塚 達以 先生
記事はコチラから

「子どもの発達と、耳の健康」綿谷 秀弥 先生
記事はコチラから

「子どもの視力とメディア視聴」野呂 充 先生
記事はコチラから

「子どもの眼の病気とメディア視聴」藤岡 俊亮 先生
記事はコチラから

「母親の不安解消と「かかりつけ医」の役割」川村 和久 先生
記事はコチラから

「防ごう!『子どもロコモ』」佐々木 祐肇 先生
記事はコチラから
執筆者
親子で学ぶ、ヘルスケア事務局
医療施設情報